第18話 狂人

「あはははは、私の邪魔をして後悔し始めた頃かな?」


自分の身の安全など眼中から外れ、怒りに脳を支配され欲望のままに…壊す。壊す。壊す。

血や肉片が飛び、厳しい生存競争を生き抜いてきたモンスターですら恐怖のどん底へと落ちる。何も持ってない丸腰の相手で、しかもさっき片腕を食いちぎった筈の相手に殴られ、柔らかい肉の部分に指を食い込まされ、ゆっくりと確実に削られていく。理不尽なことに相手はいくら削っても数秒もしないうちに傷は塞がり欠損部位からは骨が生え肉がつき皮がつく。そして、何よりも怖いのがその目である。明らかに焦点が合ってない虚な目に映るのは死にゆく自分の姿…。


「邪魔する奴は許さない。この世界の法律じゃ、ここで起きることは全て自己責任らしいからなぁ?動物を殺傷しても怒られない。あはははは、こんなに血まみれになったのはイノシシに邪魔されて殴り殺した時以来だよ。野生動物さんは人がロマンを楽しんでる時に限って邪魔してくるからさー。嫌いなんだよね。邪魔した奴はみぃーんなぁ殴り殺したけどさぁ。」


因みに彼女の前世は13を迎える前に終わらされたのだが、既に野生動物との殴り合いで指を何本か欠損していたり、内臓も幾つか不全になっていたりと結構酷い状況だった。金銭面はギャンブルにクソ強かった事もあり短期間で大金を作り出し親に迷惑をかける事は無かったし、基本ロマンが好きでも規則には従っているのであまり法律を破る事もなかった。ただし、ロマンの探求の邪魔をされれば人であろうが動物であろうが手を出すやべー奴であった。ロマンの探求のために全てを捨てた狂人、それが彼女を最も簡潔に表す表現だろう。


「あははははははは、私の邪魔したんだから簡単には殺さない…。言いがかり龍の時は困惑とルールがわからない+邪魔はされてないから見逃す選択肢もあったがお前は無い。出来るだけ苦しめて殺したあげる。与えられた魔法なんて使ってあげない。私のロマンを邪魔したのだからすぐ終わりにはしない。ほら、他の子達も呼べよ。私の勘は外れた事が無いんだ。お前の仲間はまだ数匹居るだろう。出せよ。もう少し痛めつければ我慢出来ずに出てくるかなー。私を邪魔しようとなんて考えた時点で同罪なんだよ。」


毛をむしられ、皮が剥がれ、肉を抉られ、骨を折られる。柔らかい部分を瞬時に見極め身体能力強化を使用して素手で相手をゆっくりと削る。反撃しようとその口を開けば両手で思いっきり開かれ顎が外れ、下顎と上顎が分離する。その爪を使おうとすると蹴りで脚を折ると同時に膝で露出した口内を突き上げられる。種族的にも戦いの経験値的にも圧倒的に勝っているモンスターですら、キレた彼女の前では赤子のようなもの。一切の反撃が出来ず、高笑いだけを聞かされる。腕が落ちても動揺していなかった時点で逃げるべきだったとモンスターが悟った頃にはほとんどの肉が抉られ内臓が溢れ、もはや放置しても死を待つだけの状態となった。一応モンスター達はデフォルトで軽い再生能力は持っているが欠損を治すレベルのものを持っているのは超少数である。


「あはははははははははははは、ここに居る子は皆殺しだ。巻き込まれた冒険者の方はドンマイ。」


怒りのままに凍結魔法を全開し一気に周囲を凍りつかせる。魔法拘束具をつけていないと周囲の環境を変えるほどの冷気を出していた彼女がつけていた魔法拘束具を腕や手首ごと落とした状態で全開にして仕舞えば…、ダンジョン全体どころかダンジョンの周囲までもが一瞬で凍りつく。



〜その頃勇者〜


「何このおっさん。強すぎる…。」


「どいつもこいつもロクに鍛えもせずにスキル頼りの馬鹿の一つ覚え。なんでお前らはいつもこうかね…。おっさん、昔転生者が転移者かしらねぇーがそー言う奴が馬鹿やった時に暗殺任されてた人なんだわ。お前らがどっちかしらねぇがルールを守れないのだから死んでもらう。お前らはロクに説明も聞いてねぇから知らねーだろうが新しく出来たダンジョンってのはな何が出てくるかどのぐらいの難易度かそういうのが分からない+下手に刺激するとスタンピード、つまりダンジョン内のモンスターが大量に外に出てきちまう危険性もある。だから、新しいダンジョン程ルールは守らねばならない。なぁ、これはこの世界の常識だぜ?異世界人さんよ。“時を止める”、“重力を無限に増やす”、“バフデバフの上限下限無し”…こんなもんだろ?通用しねーよこの程度のスキルじゃ元Aランクの俺にすら勝てねー。デフォルトで再生能力付きはクソ面倒だが再生が間に合わない速度で削るか焼けば簡単。この世界はなぁ、混沌としていてお前らが望む無双だのなんだのは無理だぜ?恨みを買いすぎて殺された奴も何人かいるしな。参考までに俺が殺した異世界人の数は百は軽く超えるぜ?」


因みにこの男が殺した異世界人やその他極悪犯罪者の数は総勢3189人。この世界に来て調子に乗った異世界人達はどこに逃げ隠れようとこの男に殺されている。別にこの男には特別なスキルなどは持っていない。ただ純粋なパワーとタフネスだけで様々なチートスキル持ちを殺している。このダンジョンの監視を任されているのはこのダンジョンの危険性が未知数である事及び勇者達がこの国で呼び出されたことに起因する。基本的に異世界転移者の監視は彼の仕事である。冒険者を引退したのは異世界人の監視に専念するためであり実力は全く衰えていない。


「は?」


勇者が呆気に取られる。さっきまで目の前にいた男が消え自分の両足も同時に消えたためである。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…etc。」


「うるせいな。お前が弱すぎるからこうなってるんだろ?俺の勘定だとお前Bランクにすら勝てるか怪しいぞっと。仲間がやられてるのに薄情だね。敵に背中を向けるなんてみっともない…。」


手に持っていた一本のナイフを投げつける…。スキルを発動するよりも前に背中に刺さり脊椎損傷により動けなくなる。


「最後の一匹、おっさん女だからって見逃す程紳士でもねぇーんだわ。」


おっさんはその辺に落ちていた小枝を拾うと軽く投げる。女に弾丸並みの速度で迫り来る小枝を防ぐ術は無かった。頭を綺麗に貫かれ倒れた。


「あ、やっぱあいつやばい奴だったな。」


そう言いながらおっさんは木の上に急いで移動すると同時にインスタントの結界を複数使い空中に足場を作る。

次の瞬間、ダンジョンの入り口から広がるように周囲が一瞬で凍りついた。その凍りついたモノの中にはかろうじてまだ息があった勇者パーティー一行も含まれている。


「ヒュー、触らぬ神に祟りなしだわ…。おっさん、死が見える勝負も、必要がない殺しもしない主義なんだわー。アイツ見た感じキレたらやばいタイプだったしな。差し詰め、何か目的をモンスターか冒険者に邪魔されてキレた結果だろこれ。マジ怖ー。でも、出来る限りルールは守るタイプに見えたし俺が監視する必要はねぇーな。うん、関わりたくねぇーもん。」



作者簡易解説

おっさんがチートスキル相手に殺しを成立させられていた理由はスキルの発動前に殺すかスキル発動後の隙を狙うなどして相手の油断をついたり、全力を出させなかったりしているためである。ただし、格下相手だと遊ぶ癖があり、何度も殺されかけている。だが、おっさんは異世界人達と違い殺しや自身の死に全く忌避感を持っていないためおっさんを殺すに至れたチートスキルや能力持ちの異世界人は居ない。

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