第7話 討伐隊

〜街を守る壁の外にて〜


俺たちは呼び出され、この異変の解決を命じられた。ギルドのAランク以上になるとギルドの直接依頼を受ける義務が発生するがこんな貧乏籤を引かされるとは…。


「俺ら5人でどう対処しろと?」


「私らに言われても困るわよ。この猛吹雪に耐えられるのが大前提な訳だし、こうなるのは目に見えてるでしょ。」


「はぁー。こんな天変地異起こせる化け物退治なんて俺らだけで討伐出来んのかねー。そもそも、生体反応があったって話も怪しいしな。」


「そんな事言ってないで、ってそろそろ目標地点に着くわよ。」


「全員臨戦体制。」


吹雪で視界が悪く、目視は出来ないが明らかに異常な気配がどんどん近づいてくるのは分かる。俺の長年の勘が言ってるが俺らが束になっても到底敵わないそれ程までの強者と…。


「ふぁー、いつまでこの吹雪続くんだろ。こちとら暖を取りたいのに、家の中でぬくぬくしたーい。」


「!!?」


俺は思わず呆気に取られる。目の前に現れたのは明らかに未成年。少年、いや、体つきからして少女であった。しかし、その身体からは辺り一帯を凍り付かせるほどの冷気が出ていた。


「「魔力自体が冷気を帯び…てる?」」


パーティーの魔法使いと僧侶がそう言った。俺には魔法の適性がなかったので魔法の事はさっぱりだが動揺の仕方からみて相当な異常自体である事は分かる。何よりこれの問題はこの少女自体におそらく自覚が無い事だ。


「あらら、腐ったモンスターの次は人間?いや、尻尾?人狼?…はぁー、ロマンやばい。興奮してきたかもー!!」


少女から放出される冷気の温度が格段に下がり勢いが増す。


「どうする?俺ら戦っても徒労に終わると思うぞ。それどころか無駄に命散らす気がする…。」


「取り敢えず拘束するわ。」


僧侶が魔法使いにバフをかけ、魔法使いが束縛の魔法を展開する。


「…不味い、魔法が使えない。」


「はぁ?」


「正確に言うと外部に放出した魔力を変化させる前にあの子に吸われてる。」


「だが、僧侶のバフは効果発揮してるじゃねぇーか。」


「バフやデバフを単体にかける際は内部に直接かけられるからじゃ無いかしら。複数だと範囲で外部からバフつけてるから多分複数なら同じく吸われると思うわ。」


「じゃあ、どーするよ。生身の俺らが耐えられる時間も限られてるぞ?」


「って事は俺の出番、つまり交渉って事だね。幸い普通に話通じそうな相手だし。」


「馬鹿か失敗したら…。」


「失敗したら?全員仲良く死ぬだけさ。他に選択肢は無いだろ?魔法攻撃は効かない。近接戦もあの冷気に当てられ続ければ簡単に凍死するし、武器だって凍り付いて砕けるのがオチさ。今黙って冷気からみんなを護ってる大楯もいつまで耐えられるか?少し考えれば最善の選択は分かるはずだよ。」


そう言いながらシーフは何も持たずに討伐対象に近づく。


「ふーむ、何の話し合いをしてたのか分からないけど、妙に敵意が消えてる。油断した所を背後からグサーってか。不意打ちは…忍者とかにやられるならロマンあるなぁ。絶対面白い殺し方してくれるもん。」


彼女にとっては何よりも優先すべきはロマンでありそれ以外は二の次である。


「お嬢さんお嬢さん、ここに何の用があるのかな?」


「向こうから話しかけてきた!第一発見村人的な?…良い。あ、私の用?なんかずっと吹雪だからあったかい室内でお風呂入りたいんだけど、吹雪止む様子ないし、壁あって入れないし立ち往生してたとこ。お兄さんどーにかしてくれない。マジでとっとと風呂入りたいんだけど。お湯に浸かってポカポカしたーい。」


するとシーフは仲間に合図か何かを送り始めた。


「(気づいてないフリが得策かな。)どーしたの?お兄さん急に黙っちゃって。」


〜少し離れた討伐パーティーにて〜


「おい、やっぱ自覚なしだったんかい!!要求は温かい風呂って…。そんな事のために俺らは命掛けてきたのかよ。」


「でもよかったじゃ無い。魔族の侵攻とかじゃなくて、ここ数日、邪龍のパトロールが無くて不穏だったからみんな相当警戒してるのよ。今の魔王は私達の先祖が降伏してから特に侵攻はして来ないし…。まぁ、ここは名目上魔王の領土だから侵攻とは言えないんだけど。逆に自治を認めた範囲外にも生活圏を広げると私達側の侵攻扱いになるけど。」


「どーするよ。魔力自体にこのレベルの事態を起こす性質があるんだろ?向こうの要求に応えられないぞ。」


「馬鹿ね。魔力ぐらい魔法を使う者なら操作できて当然でしょ。操作をするって言う意識がなきゃ無意味だけど。多分本人的には“いつも吹雪だけどどーしてかなー。”って感じでしょ。なら、魔力制御の仕方を教えればいいのよ。」


「出来るのか?」


「馬鹿にしないでちょうだい。習得できなくても私にはこれがあるわ。」


「あー、魔法を使う者専用の拘束具。たしか魔力を扱えなくするんだっけか?」


「そう、本来なら魔法犯罪者に使われる奴。」


〜交渉現場にて〜


「ねぇー、お兄さん。さっきから無言で何がしたいのさ。そっちに敵意が無いから別に良いけどさぁー。(手話やモールス信号じゃ無いし分からない。でも暗号ってロマンあるしいっか。)」


「いやいや、何でも無いさ。さて、ここからはバトンタッチらしい。」


「ふーん?(何がしたかった?)」


向こうから女の人が来ると話しかけてきた男の人は引っ込んだ。本当に何がしたかったんだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る