第五話 もう他人だと言うこと


 怒りならばまだ良かったと思う。ケンカなら謝れる。けれどもあれは、失望。


 自室の勉強机に座って、表情のない天井を見上げる。


 もう他人だと言うことだろうか。


 いやいや、そもそも他人だっただろう。でも、『わたしだ』って言ってくれた。いや、それも一方的な話だった。勘違いだったのかもしれない。考えてもみれば、圧倒的に一方的だったじゃないか。向こうから、勝手に同一視して……


「嬉しかったな」


 どんな形であれ、認められたのだ。


 璃愛りあさんと僕は天と地ほど離れた存在だ。お義父さんに気を遣って、やりたいことさえやらないで、言い訳ばかりの僕とはまるで違う。本来なら一緒に居てはいけないはずだ。そんな彼女が『わたし』と呼んで認めてくれた僕なら自分でも認めてあげられると思った。少し好きになれそうだと思った。


 なんで好きになれそうなのだろうか。


「……『わたし』、か」


 答えは単純明快だった。

 僕は椅子から立ち上がって、自室を出て、父の部屋へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る