きっと、これから友達になる女の子 続 2人台本
サイ
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雨(m):きっと、これは私の意思なんだと思う。
雨(m):私が終止符を打たない限り、永遠に繰り返す。
雨(m):でも、どうしていいかわからない。
雨(m):そうやって、何度目かの高校2年生の夏が、またやってくる。
蒼:倉木さん、きみのこと、好きなんだ。付き合ってほしい!
雨(m):…もう、何度この言葉を聞いたんだろう。
雨(m):このストーリーの結末を、何度見たんだろう。
雨(m):疲れ果てていた私は、思わず、言ってしまった。
雨:ありがとう。すごく嬉しい。けど……
雨:来年、きっと野上くんは私のこと、
雨:捨てると思う。
雨(m):あまりにも、きつい言葉だと思う。
雨(m):彼も驚いている。
雨(m):いや、前にもこんなことを言ってしまったルートが…あった気がする…。
蒼:そりゃあ…もちろん人間誰しも、気持ちが変わることはある…と思う。でも僕は今、倉木さんのことが好きなんだ。
蒼:倉木さんが僕のことを快く受け入れてくれるのなら、一生かけて幸せにしたい。
雨:……一生。
雨(m):今度こそ、終わらせよう。
雨:わかった。幸せにしてね、野上くん。
雨(m):繰り返し、とは言うものの、全く同じルートを通るわけじゃない、ということは今までの体験上わかっている。
雨(m):だから、彼が『初デート』に遅刻してこないパターンもあった。
雨(m):彼には失礼だけど…どうせ遅刻してくる、と思って、わざと遅く行ったことがある。
雨(m):待ち合わせ時間ちょうどに「ひとがいっぱいで見つけられない…」と連絡が来たときは、さすがに焦ったっけ。
雨(m):それからは、ちゃんと時間に間に合うように行くようにしている。
蒼:はぁ、はぁ、なんとか間に合った…お待たせ、倉木さん。
雨:いいよ、私もついさっき来たところだし。
蒼:そ、そっかぁ…。今日もあっついなぁ…。
雨:コンビニで飲み物買ってから行く?
蒼:そうしようかな…。
雨(m):水族館では、今日も魚たちが悠々と泳いでいる。
雨:綺麗…。
蒼:……。
雨:ほら、光り輝いて見えるよ。
蒼:……。
雨:…なにかな。
蒼:え?!いや、何も…
雨:嘘。魚なんてほとんど見てなかったよ。ガラスにうつってるんだからわかるよ。
蒼:いやぁ…まぁ…。
雨:私の顔ばっか見てたよ。…もしかしてメイク変?
蒼:そんなことないよ?!ってかメイクしてたんだ…。
雨:一応、血色良く見える程度に、だけど…。
蒼:なんていうか…その…
蒼:可愛いと思うよ。
雨:あ、ありがとう…。
雨:って、そうじゃなくて…なんでそんなに私の顔をみつめていたの?
蒼:えっと…倉木さんは、僕に妹がいるのって知ってたっけ。
雨:ちらっと、聞いたことがあったかも。
蒼:実はその…妹に、「初デートに水族館って重くない?」って言われちゃって…
雨:あー…なるほど…。
蒼:やっぱり…倉木さんも重いって…思いますか。
雨:ううん。私、魚好きだから。水族館はすごく嬉しい。
蒼:そっか…あぁよかった…。
雨:あ、そうだ。
雨:野上くんのこと、名前で呼んでも…いい?
蒼:……!!
蒼:ちょ…ちょっと待ってください…嬉しいことが続きすぎて…心がもたない…。
雨(m):蒼がここで妹の話をしたのは初めてな気がする。
雨(m):今までも微妙に言い回しが違うことはあったけど…こうも違う展開は…。
雨(m):このときの私は、そんなこともあるんだな程度に思っていた。
雨(m):それから私は水槽が変わるたびに、魚についていろんな話をした。
雨(m):サメと小さな魚は共食いしないように工夫して展示してあること。
雨(m):でもときどき食べられてしまうこともあること。
雨(m):鯛の類の体が赤みがかっているのはカモフラージュであり、意外と暗い海では見つからないこと。
雨(m):青魚の腹が白いのもまたカモフラージュであり、下から見ると太陽の光に溶け込むようになっていること。
蒼:海の魚も…空に憧れているのかな。
雨:空を飛ぶ鳥も、海に憧れてると思う。
雨:蒼、進路希望表、どうした?
蒼:うーん…まだちょっと迷ってて。
雨:ある程度は絞れているの?
蒼:うん、専門学校へ行こうとは思ってるんだけど。
雨(m):ここだ。
雨(m):何度繰り返しても、覆らなかった結末。
雨(m):…彼の夢を邪魔したくない。
雨(m):でも今更、彼との関係を友達に戻すなんてしたくない。
雨(m):色々考えたけど、結局答えが出ないまま、今日を迎えてしまった。
蒼:これ…海洋動物の専門学校なんだ。雨に魚のこといっぱい教えてもらってから、魚に興味がわいてきて。
蒼:いつか、水族館で飼育員をしてみたいなって。
雨(m):知ってる。
雨(m):このあと蒼は「東京の学校に行きたい」って言うんだ。
雨(m):そうしたらもう、離岸流に飲まれてしまう。
雨(m):どうしていいかわからなくて、頬を一粒のしずくが伝った。
雨(m):思わず私はその場から逃げ出した。
雨(m):それから蒼と連絡を取ることは少なくなった。
雨(m):今は未来のために頑張るときなんだから、連絡している場合じゃないでしょ、なんて。
雨(m):本当は私が会いたくないだけ。
雨(m):向き合うのが怖かっただけ。
雨(m):高校最後の夏休み
雨(m):卒業後、彼は東京へ行く。
雨(m):彼の幸せを考えるなら。
雨(m):考える、なら…。
雨(m):終業式終了後の、誰もいない静かな教室に、私は呼び出された。
雨:お待たせ。先生と話をしてたら遅くなっちゃった。
蒼:ううん。いいんだ。僕もさっき来たところだから。
雨:入試、もうすぐだよね。
雨:…本命は、東京の学校、だっけ。
蒼:…うん。
蒼:雨。
雨:…なに?
蒼:いろいろ、考えたんだ。雨のこと。
蒼:東京へ行ったら、雨のそばにいることはできない。
蒼:雨がつらいとき、苦しいとき、寄り添って、抱きしめてあげることが、
蒼:嬉しいとき、楽しいとき、顔を見合わせて、一緒に喜ぶことが、
蒼:…できない。
蒼:…僕は、雨のこと、幸せにしてあげたいのに。
蒼:雨、僕たち、
雨:去年の今頃。
雨:…私が言ったこと、覚えてる?
蒼:……。
蒼:僕が、雨を捨てるだろうって。
蒼:でも、聞いてほしい。
蒼:僕は…雨のこと、捨てたいって思ったわけじゃないんだ。
蒼:僕は今でも、雨のことが大好きだし、幸せにしたいって思ってる、
蒼:でも離れ離れになったら、
蒼:きみを幸せに…できない。
蒼:もしかしたら…僕よりきみを幸せにできる人が、現れるかも…しれない…。
雨:……。
蒼:そう、思ってた。
蒼:でも、それは。やっぱり違うって思ったんだ。
雨:……え?
蒼:僕は、雨じゃないとダメなんだ。
蒼:雨と離れてしまったあとの日々は、あまりに空虚で。
蒼:友達だなんて言っても、気軽に連絡なんてできなくて。
蒼:ほんとに…つらくて…
雨:ちょ、ちょっと待って。
雨:私と離れたあと…って…どういうこと?
蒼:僕にも…あまりよくわからないんだけど。
蒼:もう一度やり直して、なんとか雨と…恋人のままいられる方法を探りたいって思っていたら、
蒼:気づいたら、高2の夏に戻ってて…。
雨:私も…
蒼:…え?
雨:蒼と恋人のまま…蒼とずっと幸せでいたいって思って…何度も、何度もやり直して…。
蒼:…だから、僕が雨を捨てるって言い切ったの?
雨:だって…何度やり直しても…変わらなくて…終いには諦める方法すらわからなくなって…ずっと…ずっと…!
蒼:……そっか。
雨(m):泣きじゃくる私を、蒼は抱きしめてくれた。
蒼:僕は、雨の幸せを願って、心をころすしかないって思ってた。きっと、違う次元の僕はそうやって耐え忍んでいたんだと思う。
蒼:でも、このままじゃダメだって、立ち上がれた僕もいた。
蒼:雨は、そんな僕を探し続けてくれていたんだね。
蒼:あらゆる次元の、ありとあらゆる僕と対話して。
蒼:僕と、幸せになろうとして。
蒼:…ありがとう。
蒼:本当に…ありがとう。
蒼:大好きだよ、雨。
雨(m):蒼は声を震わせながら言った。
雨:私も、大好きだよ。
雨(m):結局、蒼は東京の学校へ、私は地元の大学へと進学することになった。
雨(m):ひとつ違うことは、私と蒼は、友達ではなく、今も恋人同士にある、ということだ。
雨(m):蒼はあの後も、一人だとつらくないかと、志望校を変える気だったが、恋人同士でいられることが幸せだから、遠くても大丈夫だと伝えた。
雨(m):蒼は上京後もこまめに連絡をくれていたから、寂しくないわけではないけど、幸せに過ごしている。
雨(m):高校卒業後の初めての夏休み、蒼は東京から帰ってきて、私とデートしてくれることになっている、はずなんだけど。
雨:…来ない。
雨:……。
蒼:お、お待たせー!!!
雨(m):バタバタと蒼が駅の広場にやってきた。
雨:…遅い。
蒼:ご、ごめん…昨日緊張して眠れなくて…
雨:…本当は?
蒼:妹に「久しぶりのデートなのにまた水族館?!」って言われて…。
雨:私も蒼も、魚が好きなんだから、問題ないと思うんだけど。
蒼:久しぶりだし、もっと…変化つけた方がいいのかな…とか…。
雨:いいの。というか、水族館がいい。蒼と水族館に行きたい。
雨:だから、早く行こう?
蒼:うん……!!
雨(m):私と蒼はこれからも、2人で、未来へ歩んでいく。
きっと、これから友達になる女の子 続 2人台本 サイ @tailed-tit
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