第223話 外泊
えっと、うちに泊まっていく?
それって、息子の彼女に、実の母親が言って大丈夫な発言なのか?
男女七歳にして
「それ、古代中国の言葉だから。今どき、あんたくらいしか使わないわよ」
母さんは、エスパーの様にこちらの心を読んで笑っていた。
「どうして、心が読めるんだよ」
「顔に書いてあるわよ、男女七歳にして同衾せずって」
「そんな言葉書いてあるわけないじゃん」
こういう感じになると母さんは止まらないのがわかっている。
「でもさ、さすがに……」
「大丈夫よ、むしろ、あのまま一人でマンションに放置する方が危険よ」
「大騒ぎになるかもしれない」
「大丈夫。いざとなれば、お父さんにも、私から話を通す」
そう断固言われてしまったからには、こちらから何も言えなかった。
※
彼女が待つリビングに戻ると、彼女は少し安心した顔でテレビを見ていた。
「もう、お母さんの方は大丈夫ですか?」
「うん、それでさ、今日はうちに泊まっていってほしいんだけど」
あまり、もったいぶっても仕方がないので、ストレートにそう言うと、彼女のほうも思わず固まった。少し胸を隠すような仕草で、いぶかしげにこちらを見つめる。
「えっと、いろんな意味含んでます?」
意味深な返事をされて、こちらは恥ずかしくて死にそうだった。
「ち、ちがう。雨がひどくなってきたし、今日は落ち込んでたみたいだし。あんまり、一人で過ごすのは良くないんじゃないかって……母さんとも相談してさ」
「そっか。心配かけちゃいましたね。ごめんなさい」
「無理にとは言わないからさ。さすがに、男の家に外泊はハードルも高いし」
「そうですよね。でも、今日はお願いします」
「だよな、さすがに……えっ?」
思わぬ反応に、一瞬ずれた反応を返してしまった。
「だから、お願いしますって。私、今まで友達の家に泊まったことってないんですよね。少しあこがれもあるし、それに……」
「それに?」
「恋人の家に泊まれるチャンスなんてなかなかないじゃないですか。ちょっと、期待している自分がいます」
理性がゴリゴリ削られる音がする。期待って、なに?
「お父さんに言わなくても大丈夫なのか?」
「大丈夫です、一応、メールで連絡します。友達の家に泊まることになったとでも言っておけば」
それで本当に大丈夫なのか。
「大丈夫ですよ。黒井にもきちんと伝えておけば、口裏を合わせてくれます」
「そっか。じゃあ、布団とか用意するね」
「お願いします。それと……」
彼女は、こちらに近づいてきて、自分たちにしかわからないような小声でささやく。
「なんか、いけないことしている気分になっちゃいますね。親にも嘘ついちゃうし」
こっちの体温が急上昇するのがわかった。それに気づかれないようにできる限り早くその場を離れた。
※
―一条愛視点―
「はぁ、今日は本当に自分らしくなれないな」
誰もいなくなった青野家のリビングで、ため息をつく。
身体が熱い。心を落ち着かせるために、深呼吸をしても、彼の匂いをダイレクトに感じてしまう。自分の理性が少しずつ崩れていくのが分かった。
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