第188話 立花部長の破滅

―立花視点―


 なんで!?

 どうして、あのメッセージが残っているの。意味が分からない。

 私は完璧に立ち回ったはずなのに。メッセージは消したはず。にもかかわらず、あの日、送信したメッセージがそのまま残っていた。


 天田美雪の気持ちが完全に落ち切っていないと相談してくる彼に対して、私は英治君をさらに追い詰めればいいとアドバイスしていた。具体的な方法がわかるサイトへのリンクも貼っていて……


「君が送ったメッセージで間違いないだろう?」

 高柳は、冷たく言い放つ。


「記憶にないです。私が送った証拠はあるんですか。そもそも、私のスマホにはそんなメッセージ残っていないんですよ。誰かが捏造したとか、私をかたった他の人なんじゃないですか。私は、こんなの知らない。全然、知らないっ」

 そう言い訳をすると、高柳は重いため息をついた。


「このSNSは、珍しい仕様で、メッセージを消去したら、復元できないらしい。だから、君がメッセージを消した後に、近藤がタイムラインを同期したら、この証拠は残らなかっただろうな」

 私の言い訳なんて知ったことじゃないように、決めつけるように淡々と説明を続ける。背中から冷汗が垂れる。言い訳が全く通用しない。


「だから、私はやってないって」

 余裕を完全になくして、怒鳴りつけるように否定するが、高柳は止まらなかった。


「だが、近藤は追い詰められて、自分のスマホに八つ当たりして、壊してしまったんだよ。だから、SNSにログインできなくなり、同期が行えなかった。そして、お前がすべてを裏で操っていた決定的な証拠が残ってしまったということだ。無駄な言い訳はやめろ。大人をなめるな。こんなに問題が大きくなってしまったんだ、立花。お前の子供のような言い訳は通用しない」


「言い訳じゃないわ!! 教師なら、私のことを信じてよ」

 どうして、話が通用しないのよ。この人は。


「そうか。警察も今回の件もあるから、SNSの調査を開始するらしい。ここまで明白な証拠が残っているからな。警察の調査で、立花が言っていたことが本当かウソかはっきりするだろう」

 こうなったら、アカウントを削除するしか……


「一応、言っておくが、アカウントの削除をしたとしても無駄だぞ」

 何も言い返せずに、鋭く睨み返すことしかできなかった。


「立花。学校側は今回の件を重く考えている。しばらく、自宅謹慎してもらうことになるが、わかったか?」


「うるさい、うるさい。こんなこと、私は認めない」

 

「もう、いい加減、大人になれよ。立花。もう逃げることなんてできないんだ」

 諭すように話す高柳に冷静さを失うほど、激高してしまう。


「もういい。なら、私は自分の潔白を証明して見せる。そうなれば、あなたは教師なんて続けられないわよ。覚悟はできているんでしょうね!!」

 できる限り強い言葉を使って脅すが、高柳は取り合おうともしなかった。


「教師なら、そうであって欲しいものだよ。他の文芸部員にも聞き取りをしている。また、何かわかったらこちらから連絡する」

 だめだ。どうにかしないと。もう言い訳が通用しないなら、私じゃない誰かを犯人に仕立て上げるしかない。


 松田さんは、現在、取り調べ中なら、手っ取り早く林さんを狙う。どうにかして、既成事実を作らないと。


 私は、小動物を狙う肉食獣のように駆け出した。


 ※


「高柳です。今、立花の面談が終わりました。言い訳を続けて認めませんね。松田は? なるほど、ほぼ認めましたか。わかりました。立花は追い詰められていますし、無理やり林や他の文芸部員に接触しようとするかもしれません。トラブルが起きる前に、今回はパトロールを強化しましょう」

 俺の予想では、立花は無理やり何かをしようとするだろう。だが、それは追い詰められてやぶれかぶれの大ばくちのようなものだ。うまくいくわけがない。逆に、警察の調査が完了するよりも早く、決定的な証拠をつかむことができると予想していた。


 すでに、林には青野たちがついていてくれるし、先生たちも注意深く観察してくれているはずだから、そこに無理やり接触しようとするならば、立花は罠に落ちたねずみのように一気呵成に崩れていくだろう。


 念のため、俺も彼女の後を追った。

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