第187話 鉄靴の上で踊る立花部長
―高柳視点―
満田の通報を受けて、文芸部に突入する。
すでに、ほとんどの話は聞かせてもらった。これで決着をつける。今までの不毛な議論はもう終わりだよ、立花。
「違う、違う、私は悪くない。松田さんと満田君にだまされていたのよ。私は何も知らない。巻き込まれただけ」
そう泣き叫ぶ立花は、かなり抵抗していた。
横にいた松田は「部長、何を言っているの?」と茫然自失状態だ。
グリム童話の白雪姫を思い出す。白雪姫をいじめぬいた継母は、最期には、すべての悪事が露呈して、王子様によって真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて、踊るように処刑される。
彼女の見苦しい姿が、その白雪姫の継母と同じように見えてしまった。
こんな醜態を見せられた松田は、もう簡単に落ちるだろう。
この最後のあがきが自分にとどめを刺していることに気づくこともできなくなっている。
「とりあえず、落ち着いて話をしよう。立花は、生徒指導室に。松田は、保健室で」
俺は、立花を担当する。
※
―生徒指導室―
「単刀直入に聞こう。今回の池延エリ襲撃未遂事件。そして、青野英治に対するいじめの主導的な役割を担ったのは、立花。お前だろう?」
立花は、まだ動揺が収まっていない様子だが、さきほどよりは落ち着いていた。
「違います。今回の件は、松田さんが暴走しただけです。学校側が、彼女を追い詰めすぎたの原因ですよ。彼女の言動は、最近かなりおかしくなっていた。いじめ問題の容疑者として、文芸部が疑われ始めてからずっとですよ」
なるほど、そう言い訳するのか。
「では、青野英治の原稿がピンポイントで抜き取られて紛失した件はどうだ?」
「何度も言いますが、私は無関係です。ですが……今、考えれば怪しい人間が部内に2人いました」
「ほう?」
「一人目は、一年生の林さん。彼女は、英治君のいじめ問題が公になる寸前で、部活から来なくなりました。怪しいでしょう?」
「……」
思わず絶句してしまうほど自分勝手な論法だな。
だが、彼女は何も言えなくなったと勘違いしているのだろう。自信を取り戻して、自説の披露を続ける。
「二人目は、松田さんです。先ほどもお話ししましたが、学校側の調査が始まった段階で、彼女の言動や精神状態が悪化しました。そう考えると、彼女が文芸部の裏切り者だった可能性も。だって、そうでしょう。内部に協力者でもいなければ、彼の原稿だけを持ち去ることもできないのだから」
青野の反論すら封じようといろいろと考えていたんだな。
本当に、どす黒く計算高い。そして、即興ながらなかなか反論が難しい言い訳でもある。だが、それはこちらも準備を整えていないときなら有効だが……すでに、あらかたの調査が終わっている段階では、ただのむなしい子供の言い訳だ。
「では、満田の証言はどう考えるんだ?」
「彼は、近藤君に恨みがありました。ですから、仲が良かった私や松田さんを陥れたいんじゃないでしょうか。彼は、さきほどサッカー部の仲間を仲間だと思っていなかったとも言っていましたから。仲間すら裏切った彼の証言は本当に信用できますか?」
まさに、大立ち回りだな。
「うん、立花の言いたいことはよくわかった」
「ですよ。私のことを疑うなら、決定的な証拠を持ってきてください。そうじゃなければ、私は青野英治君と同じえん罪被害者です。これ以上、疑うのであれば、私もそれ相応の防衛手段を取らざるを得なくなりますよ」
自分の立場が優位となったと錯覚して、学校側すら脅そうと反撃に出たな。
だが、これはこちらが待っていた状態だ。
守勢だった人間が攻撃に回ったとき、最も警戒が薄れてしまう。思考のエアポケットが生まれやすい。そこを相手が予想していない場所から反撃すれば、一気に崩れる。
「では、このメッセージのやり取りはどう反論してくれるかな? 警察のほうから、さきほど、提供があったんだ。どうやら、近藤のスマホのデータが復元できたらしい。そこに、君と近藤のSNS上のメッセージの一部らしいが?」
その言葉を聞いて、彼女の顔色が見る見るうちに蒼白になっていった。
小さな声で「嘘」とつぶやきながら、最期のダンスを踊るように震えあげがっていく。再び攻守は完全に逆転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます