第184話 物語の破綻

―立花部長視点―


 昼休み。池延エリは学校を休んでいた。

 これは好都合。すでに、松田さんを使って、満田君に指示を出している。

 今頃、サッカー部の有志が彼女のもとに向かっていることだろう。


 松田さんとは部室で落ち合うことになっていた。


「部長!!」

 彼女は、青白い顔で不安な色をまといながら、こちらにすがりついてくる。


「どう? 満田君たちから、連絡は?」

 あえて、私のスマホを使わないようにしている。言い逃れるために。


「はい、今連絡があって、全部うまくいったって。どうしましょう?」

 なるほど、罪の意識にさいなまれているのね。都合がいいわ。これで彼女も手ごまとして動きやすくなるはず。


「なにか、写真などは送ってもらった? ちゃんと確認したの?」


「まだです。今から送ってもらうことになっていて……」

 その連絡が来たら、私はすぐにこの二人を切り捨てるために動かなくてはいけないわ。池延エリの問題が表ざたになる前に……


 だが、連絡はなかった。どういうこと? もしかして、トラブルでも起きて、連絡できない状況になったの?


 たとえば、誰かに目撃されて警察に捕まってしまったのなら。

 どうする、どうすればいい。ここで二人を切り捨てる? それが安全だけど、仮に満田君たちが警察に捕まっているなら、逆に怪しまれる可能性もある。


 これじゃあ、動くことはできない。どうすればいい。どうする。


 結論が出ないまま、私たちが立ちすくんでいると、誰かが部室のドアをたたく音が聞こえた。


 ※


―青野英治視点―


 学食で、一条さんと林さん、サトシと遠藤と落ち合う。

 一条さんたちは、移動教室だったらしく、さきに椅子を取っておいてくれたようだ。


「じゃあ、自己紹介しよう。簡単な説明は、二人に話してあるから。サトシと遠藤は、協力してくれるって言ってくれているんだ」


「今井サトシだ。何かあったら頼ってくれ。ついでに、連絡先交換もしておこう」


「遠藤一樹です。心配だと思うけど、大丈夫。周囲は敵だけじゃない。味方もいるからね」


 こんな感じで、全員の連絡先を交換し、グループラインも作った。もし、何かあったときは、そちらに書き込みして、気づいた誰かしらが駆けつけるようにしている。あと、とりあえず、今後2週間は、通学と放課後は一人にしないように、みんなのスケジュールを合わせた。


「私なんかのために、本当にありがとうございます」

 林さんは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

 俺と一条さんは、同時に「そんなことない」と否定し、サトシが続いてくれた。


「林さん、大変な時は誰かに頼ったほうがいいよ。そうしないと、輪が途切れてしまうからさ」

 林さんは、少しだけ嬉しそうに「輪?」と聞き返す。


「そう、輪だ。たぶん、ここにいるメンバーは、どこかで英治に救われたことがあるんだよ。俺も小学校の時にちょっと借りがあるし。だから、今回の件で英治が俺に頼ってくれて嬉しかったんだよ。助けて助け返すっていう連続が、さらに大きな信頼関係を生むと思うんだ。だから、もし俺たちが今後何か困ったことがあったら、その時は、林さんが助けてくれ」

 みんなが優しくうなずくと、彼女は嬉しそうに下を向いて、震えながら「本当にありがとうございます」と何度も繰り返していた。

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