第181話 運命の日

―翌日(立花部長視点)―


 いよいよ、今日が運命を決める日。

 松田さんはうまくやってくれた。今頃、サッカー部の大部分は、恐怖におびえているはず。そして、すべてのヘイトが池延エリに向かっている。


 そして、暴発するのは、今日の夜。サッカー部員たちは、一挙に池延エリのもとに殺到し、彼女に口封じする。


「あとはうまく逃げ切るだけ。私だけはうまく逃げ切ればいい」

 自分は魔女のようなもの。すべての計画を握っているのは、全部自分だから。


「これは、私にしか描けない物語。優しい青野英治じゃ絶対に無理。私以外に絶対に無理なのよ。これが私の才能の存在証明」

 力強くそう心で叫び続けた。

 下駄箱を開く。


「えっ?」

 そこには丁寧に蝋の封をした手紙が置かれていた。

 宛先人の名前は書いていない。でも、嫌な予感が走る。


 誰もいないはずの文芸部室に向かった。

 急いで封をこじ開ける。


 ※


立花さんへ。


突然の手紙をお許しください。

私はあなたに敬意を示すことができないので、本題から入らせていただきます。


もう、これ以上無駄なことはやめてください。

そして、すべてを自白しなさい。


 ※


「なによ、この失礼なメールは!! 誰が裏切った? 証拠なんてあるはずがない。私の計画は、完璧よ」

 絶叫し、部室のテーブルにあった文庫本に八つ当たりする。

 本は、宙を舞い、ページが折れて、無残な姿になっていく。


 ※


あなたは、とても賢い人です。ですが、智におぼれていることに気づいていない。

あなたの賢さは、誰かを幸せにするために使うべきでした。

すべての罪を償ってください。


 ※


「私は、完璧よ。何も間違えないし、償う必要もない!!」

 激高しながら、そのまま手紙を読み進める。


 ※


勘違いしてほしくはありません。

これが対等な交渉やお願いなどではありません。

警告と最後通告です。

無視するのであれば、あなたは破滅を迎えることになります。


 ※


「まるで、不幸の手紙ね。こんなことで、私を止めることができるわけがない。いいわよ、そこまで言うなら、私を捕まえて見せなさい。その前に、私があんたの正体を暴いて、池延エリや天田美雪のように社会的に抹殺してやる」

 手紙をびりびりに破いて、決意を新たにする。


 証拠は残っているはずがない。だから、私は処分されない。

 この学校の生徒は全員敵よ、そう思って生きていく。私をここまでコケにした人間は、初めてよ。どうしてくれようか、本当に。


 復讐心に燃えていると、部室の入口から叩く音がした。

「こんな時にいったい誰よ」

 そう不審に思いながら、警戒しながら扉を開いた。

 扉の前にいたのは、私がよく知っている男で、そして、ここに来るはずがない人間の顔だった。


「英治君? どうして、ここに……」

 青野英治。もう二度と顔も見たくはなかった、元後輩。

 私の物語を否定し、その外で勝手に動いている完全なる部外者。

 そして、宿敵。


「部長、お話があります」

 私が知っている彼は、こんなに自信に満ちた男の子じゃなかった。

 いつも優しくなよなよしている印象の人間だったのに。


 目の前にいるのは別人だ。

 一瞬、恐怖を感じながら、もしかしたら、手紙の出し主は、彼かもしれない。そういう思いがあった。


「いいわよ、入って」

 こうして、私は運命の日を迎えた。

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