第179話 相田家の惨状
―相田視点―
ネットの炎上は、瞬く間に燃え上がった。ただでさえ、いじめや近藤市議の暴言で激しく炎上していたところに、燃料を投入してしまったわけで、あのババアは「すぐに投稿を削除したのに、なんでぇ」とか叫んでいたが……
結局、ババアのアカウントから、俺がいじめ問題の関係者であることも、どこから漏れたかわからないが、俺が首謀者の一人であることもばらされてしまった。
そのせいでネットの炎上は、爆発的な広がりを見せてしまった。
※
『悲報、あの学校に殴り込みをかけたPTA役員(笑)さんの子供、いじめの首謀者だった』
『今日のお前が言うなスレ。息子がいじめをしたのに処分された。学校は横暴とSNSで拡散希望し、無事に炎上』
『PTA役員の息子がいじめの首謀者で学校を脅すも無事に返り討ち。旦那も息子の本名も見事に特定される』
※
これが青野英治が味わった絶望なのか。
すべてが敵に見える。俺をあざ笑っているかのように……
母親も俺と同じように疑心暗鬼になってしまい、俺たちはカーテンを閉めて暗い部屋でぶるぶるとおびえていた。スマホの通知が鳴るだけで、恐怖に震えてしまう。もう電源を切ってしまった。だが、誰かに監視されているんじゃないかという怖さで、意味もなくネットの回線も遮断する。
これで完全に外部との連絡を絶ち、俺たちは引きこもった。
食事は、ジジイは仕事帰りに買ってくるコンビニの弁当だけを食べる。1日1食以下の食事で、俺たちは一気に痩せこけていく。
「今回のネットの炎上の件でさ、会社にまで苦情来ちゃったんだよね。だから、職場からほとぼりが冷めるまで休んでくれって言われたんだ」
そういうジジイの顔を直視することもできなかった。
自分の今まで持っていたと物がすべて崩れ落ちたような錯覚に陥る。
俺がいたたまれなくなって、2階の自分の部屋に逃げようとすると、急に老け込んだ父親がポツリと俺にできる限り聞こえないようにつぶやくのを聞いてしまう。
「これじゃあ、社会復帰どころか、進学も就職も難しいかもな」
未来すら奪われた自分の真実を突きつけられて、泣きたくなりそうになりながら、2階に走った。
階段を上ったところで、ババアと鉢合わせる。
怒りがふつふつとわいてくる。
こいつが余計なことさえしなければ。高校は退学になったかもしれないけど、俺の未来は奪われなかったはずなのに。全部、このババアが余計なことをしたせいで。
「なんで余計なことしたんだよ。PTA役員ごときが、どうすることもできねぇんだよ。勘違いするんじゃねぇよ、ババア」
その暴言を聞くと、女は目を潤ませて、膝から崩れ落ちてしまう。
永遠に終わらない地獄が始まった。
※
―池延エリ視点―
「まーだかな」
自室で、私はすべてが終わるのを待っている。立花さんを精神的に追い詰める。彼女は、どうにかして自分だけ逃げようと作戦を考えているころだろう。
サッカー部に私を襲わせる?
文芸部員をけしかけて、なにかする?
それとも、私にお得意のえん罪をなすりつけて、証言の信ぴょう性をぐらつかせる。
もう、この3つのパターンくらいしかないわよね、あなたには……
そして、どの選択肢でも、あなたは私と一緒に破滅する。楽しみ、楽しみ、楽しみ。もしかしたら、私、あなたの最期を見ることはできないかもしれないけど、それはそれでいいもの。
あなたがすべてうまくいったと思っているところで絶望に叩き落したいんだもん。
もう、ここで終わってしまってもいいのよ。だって、私にはもう何もないんだからぁ。だから、一緒に心中してあげる。本当は近藤君と一緒が良かったんだけどね。でも、あなたとなら一緒に地獄に行けてしまうわ、私。
こちらと同じ場所に早く落ちてきてよ。あなたも、もうすぐ私と同じになる。いつまでも、安全地帯にいると勘違いしているのかしらね。
もうそこは、戦場なのに……
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