第178話 サッカー部

―満田視点―


 立花に呼び出された。中学時代から同級生だったが、ほとんど会話をしたこともなかったのに。


 しかし、大変なことになったな。

 俺は、近藤たちのあおりを受けて謹慎処分になっていた。実行犯でもなく、ただ噂を悪意を持って拡散したという理由で。


 くそ、それで池延がありもしないことを教師にチクるなんてことになれば、俺は謹慎だけでは済まなくなる。


 あいつは、確か幼馴染の遠藤と別れさせられて、すぐに捨てられて都合のいい女扱いされていたはず。だからこそ、復讐のために、そして、自暴自棄のために、できる限り多くの人間を道連れにしようとすることもわかる。


 すべてを知っている俺じゃなければ、理解できなかっただろうな。


「もし、そうなったら俺は破滅なのか?」

 たぶん、このままいけば、俺は謹慎処分から停学だと思う。

 近藤や相田のような実行犯たちは、退学だろうな。

 相田なんて、親が暴走して、SNSに自分たちは被害者なんて投稿したせいで、大炎上。周囲からも白い目で見られてしまっていて、家族ごと社会的に抹殺されてしまった。


 だからこそ、立花は、まだ学校生活を続けられるかもしれない俺に話を持ち掛けてきたんだ。


 あの女は、悪魔的な思考力の持ち主だ。くそ、くそ、くそ。

 俺はあの女に操られるのか。近藤と同じように……


 指定された公園で待っていると、一人の女が目の前に現れた。


 ※


―部員A視点―


 部長に指定された場所にやってきた。駅のロッカーに仕込まれていた指令書によれば、私たちの破滅の運命を逃れるためには、この3年生の先輩をうまく操ることができるかにかかっているらしい。


 満田先輩。たしか、近藤先輩から仲が良いと聞いたことがある。実際は、仲が良いというよりも手下のような扱いを受けていたとも聞いている。先輩とはいえ、しょせんは、近藤先輩の腰ぎんちゃくよね。そう思えば怖くなくなる。


「立花部長の指示でこちらに来ました」

 彼は、「わかった。どうすればいい?」と焦ったように聞き返す。たしか、今は停学中のはず。もう崖っぷちなのね、余裕もなさそう。


 私たちの計画では、彼にすべてを擦り付ける。

 まずは、彼が青野英治の原稿や私物を文芸部室から持ち出した主犯にしてしまう。

 彼の学校のロッカーやカバンの中に、文芸部室の合鍵や原稿を裁断したものを入れておけばいい。


 状況証拠はそろっている。これで文芸部の疑いを晴らすことができるはず。


 そして、もう一つの課題は池延エリへの対応。彼女は、こちらに対する悪意を持っている。だから、排除するか説得しなくてはいけない。


 手を汚すのは、満田先輩とサッカー部員たち。私たちは、それを誘導すればいい。


 ※


―立花視点―


 公園の木陰に隠れて、2人の接触を監視する。

 うまくいったわ。念のため、シャッター音が鳴らない写真アプリで、二人の様子撮影する。


 あの二人にすべての悪事をなすりつけて、私だけが生き残るために、着々と準備を進める。二人への連絡は、跡が残らないようにしている。


 心苦しいけど、彼女のロッカーにも工作をさせてもらう。


「近藤君への愛憎を持った池延さんと松田さんの痴情のもつれ。お互いを逆恨みした2人はありもしないことを言いふらすとしてお互いを脅迫し、最後には……」

 これが私が用意したシナリオ。私は、あくまで愛憎のもつれやサッカー部員の保身に巻き込まれたかわいそうな被害者。そう位置付ける。そうすれば、彼や彼女たちが何と証言しようとも、ただの戯言になるはず。


「これが私の集大成になる作品」

 自分の人生をすべて賭けて、創作活動に挑む。

 

 この一瞬だけは、英治君への劣等感すら忘れて、高揚感に包まれた。

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