第173話 エリと・・・
―エリ視点―
「みーつけた」
放課後、待ち伏せるかのように彼女が学校から出てくるのをずっと待っていた。
ちゃんと、顔を合わせて真実が知りたいから。だから、誠実に答えてほしいなぁ。だって、そうだよね。私は、あなたと近藤君によって、家族も友達も幼馴染も全部失ったんだから。
「おーい、立花さぁん」
努めて明るく、彼女を呼び止める。思わずびくりとして、彼女はこちらを見つめていた。
「ど、どうしたの、池延さん、急に」
「なによ、そんなに驚かないでよ。中学から一緒の仲じゃないの。ちょっと聞きたいことがあってさ。一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今日はちょっと用事があるの」
あーあ。やっぱり、勘がいいな。この子は。
でも、逃げようとするのは、何か後ろめたいことがあるってことだよねぇ。それって、なにかなぁ、なにかなぁ?
「そっか。でも、手間かけないから、少しだけ時間頂戴? 大丈夫よ、ただのちょっとした確認だからね」
有無を言わせずに、私は無理やり彼女の手を引っ張って、ふたりきりになる。
近くの公園で話を聞こうと、「痛い、お願いやめて」と懇願する立花さんの話も聞かずに、無理やりそちらに連行する。
※
「なによ、強引に連れてきて。いくら何でも無理やりすぎるでしょう」
立花さんは、少し語気を強めて、こちらに抗議する。
「ごめんね。でも、いいでしょう。それくらいの貸しはあるつもりよ」
その言葉に、立花さんはより一層顔色を悪くする。
「貸し? 何を言っているのかわからないわ」
やっぱり、とぼけようとするぅ。
悪い女。泥棒ネコ。浮気女。罵詈雑言が次々に頭に浮かぶ。
「そっか、とぼけるんだ。じゃあ、こういえばいいかな。実はね、私、警察に捕まっている近藤君と面会できたんよぉ。そこで、全部、聞いてきちゃった。あなたが、私をずっと裏切っていたことも。全部ね」
その言葉を聞いて、彼女はより真っ青になってしまった。わかりやすいわね。かわいいと思ってしまうくらいよ。でも、可愛さ余って憎さ100倍。
「意味が、わからない」
「うんうん、そう言うと思っていたわ。やっぱり、とぼけるよね」
彼女は、青くなった顔面を隠そうとしながら、必死で言い訳を考えている様子だった。
「そもそも、あなたが近藤君と接触できるわけがない。だって、彼は警察に捕まって、弁護士以外は面会もできないはずなのに。それに、私があなたを裏切ったという証拠があるの? 仮に近藤君と面会できたとしても、彼が正直に話している証拠がどこにあるのよ。彼が、自分の破滅に動揺して、ありもしない虚言を吐いているだけじゃないの。そんなことを信じるあなたもどうかしているわ」
あーあ。やっぱり、立花さんは頭がいいなぁ。それっぽいことをちゃんと言えるんだから。
でもね。立花さん。簡単に楽にはさせないわよ。あなたは、苦しめるだけ苦しんで破滅してもらわなくちゃいけないんだからね。そうでもしないと、私の苦しみわからないもんね。だから、ここでは一回引き下がる。
彼女を一番苦しめる言葉をぶつけてね。
「そっか。そう言われてみたら、そうかもしれないわね。突然、ごめんなさい。ちょっと、私、余裕をなくしていたみたいで」
簡単に引き下がる私に、思わずほっとするような表情を見せる立花さん。
あー、あげて落とすのって、こんなに楽しいんだ。心がワクワクしてしまう。
あんたも、私と同じところに落ちればいい。
もちろん、私が許されるとは思えない。一樹に酷いことをしたから。一番悪いのは自分。でもね、私の感情をもてあそんだあなたたち2人のことを断罪するくらいの八つ当たりをしてもいいわよね。
「わかってくれた?」
「うん。確かにそうだと思う。だから、先生たちに相談してみるね」
彼女の顔色は見る見るうちに悪化していく。
「えっ?」
「だって、近藤君。今回、青野英治っていう男の子をいじめてたんでしょう。いくつも余罪があるかもしれないし。だから、私が面会で近藤君がどんなことを話していたか、学校に話してみる。何かの参考になるかもしれないし。ありがとう、立花さん!! あなたのおかげで、いろいろ考えがまとまったわ」
彼女は、まるで絶望したかのように真っ青になって、瞳孔が開いていく。
これで、彼女は無理やり何かしなくてはいけなくなったはず。
さぁ、どうするのかなぁ。楽しみだなぁ。
「じゃあ、またね。立花さん!!」
私は明るく、その場を離れる。
彼女にボールは渡された。
※
―一条愛視点―
黒井からの報告で、なんとか池延さんと立花部長の密会が無事に終わったことを知る。でも、これで池延さんの目的は明らかになった。
彼女は、自分の身を犠牲にしてまで、立花部長を破滅させるつもりなんだ……
虚しさが心を包んでいく。
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