第168話 頼る場所
―英治視点―
高柳先生の世界史の補習が終わって、俺は次の補習が行われる体育館に向かっていた。
一条さんと初めて出会った日。学校を抜け出した時、体育の先生から追いかけられたことを思い出す。あの日は事情を知らなかったから仕方ないと思っていたけど、後日、体育の補習が始まったときに。先生からは深々と頭を下げられた。
※
「青野、申し訳なかった。お前が辛く大変な思いをしていると知らなかったんだ。知らなかったとはいえ、無神経だったと思う。お前を罪人のように扱ってしまったんだからな。生徒が学校を抜け出すことは、悪いことだという固定観念を捨てることができなかった俺のミスだ。どうか許してほしい。俺は今まで口先だけの教師だったのかもしれない。生徒を守れずに、何が教師だ」
※
いつもは厳しく恐れられている先生は、本当に誠意を込めて謝ってくれた。むしろ、こちらが、申し訳ないと思うくらいに。普通の教師なら、授業中に生徒が学校を抜け出そうとしたら注意するのは普通のことだと思う。にもかかわらず、俺の事情を考慮して謝ってくれた。それだけで、救われた気持ちになる。
今日は、先生と俺だけできる授業ということで、卓球をすることになっている。ちょうど選択授業で、バスケか卓球を選ぶカリキュラムだったから、ちょうどいいらしい。
前の授業が早く終わったから、自販機で飲み物でも買ってから卓球場に向かおうと思っていたら、一条さんとばったり出会ってしまう。
「あれ、まだ授業中だろう?」
いるはずがない彼女の姿を見て、思わずそう言ってしまった。
「実は、先生に相談があって、サボっちゃったんです。先輩と出会ってから、私、サボりを覚えちゃいましたよ?」
そんな風にからかわれると、少しだけ申し訳なくなる。
「いや、それは……」
「冗談ですよ。でも、相談したいんです。私の友達を助けてほしいから。林さんのことなんですが……」
一条さんは、事情を教えてくれた。
※
―一条愛視点―
「なんで……林さんは、無関係じゃないか!! 酷すぎる」
先輩は案の定、激怒した。
「先生たちには、私から伝えました。彼女を守るためにも、できる限り孤立を防ぎたいんです。協力してくれませんか」
私は懇願するように、伝える。彼が何と言ってくれるかはわかりきっていた。
「もちろんだよ。今井にも遠藤にも協力をお願いする。林さんが、俺のようにいじめられるなんて、絶対に許せない。俺は、一条さんが一緒にいてくれたから救われたんだ。心細いときに、確かに味方がいるのは、本当にありがたいことだから。喜んで協力させてもらうよ。今日は3人で一緒に帰ろう」
やっぱり、彼は優しい。
だからこそ、私は彼を好きになったんだ。
「よかった」
短く本心を伝える。私は、今までこの本心を伝えることすら怖がっていた。本当に、彼と出会えてよかった。
「林さんは、ひとりじゃない。そう伝えてくれ」
「はい!!」
幸せな気持ちになりながら、私は林さんに早く伝えるために教室に戻ろうとする。
「一条さん!!」
呼び止められた。
「えっ?」
振り返るとともに、彼は誠実に私を見つめてくれた。
「いつもありがとう。俺がここまで立ち直れたのも、やり直せたのも、全部、一条さんのおかげだよ」
「こちらこそ、ですよ」
私もあなたがいなかったら……
私は、あなたにかけがえのないものをもらっているのに。
愛情も、人間が持っている善意も、ぬくもりも全部、思い出させてくれたのは、あなたなのに。
ここが学校じゃなかったら、思わず抱き着いてしまいたいくらい、私は彼が好きなんだ。
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