第165話 林さんへの脅迫
―林視点―
昼休み。教室の友達とご飯を食べていたら、スマホが鳴っていることに気づく。
この時間に誰から呼び出し? 部活をやめてから、めったにないはずなのに、不思議に思って、それを開いた。
SNSの通知だ。誰かの捨てアカウントからのダイレクトメッセージ。
『余計なことを教師やほかの人に言ったら、許さない』
『あんたも見て見ぬふりをしたんだから、同罪だから。部活やめたからって許されるわけないよね』
『そもそも、あなたが止めないから、部活のみんなが英治君をいじめたのよ。かまととぶってるんじゃないわよ』
思わず、スマホの画面を切ってしまう。
「(怖い)」
震えが止まらなくなり、体調が悪いと同級生に伝えて、一人になった。
たぶん、文芸部の誰かが送ってきたものだとは思う。だからこそ、怖い。部活のメンバーは、私の住所や連絡先がわかっている。もし匿名の掲示板に、私の情報がばらまかれたら……
もし、英治先輩にやったようにいやがらせされたらどうしよう。
誹謗中傷をネットに広げられたら……
もう学校に来ることができない。
「(どうしよう。誰か助けて)」
怖くて泣きそうになりながら、震えている。
青野先輩は、こんなに怖い思いをしていたんだ。私なんかよりもはるかに大変な状態で、彼は逃げずに立ち向かった。それがどんなに勇気ある行動か。同じような立場になってやっとわかった。
これは、私に対する罰なんだ。見て見ぬふりをしたから。
最低な私に対する罰なんだ。
いつの間にか、中庭に出ていた。誰かが監視しているように思ってしまう。たぶん、気のせいだと思うけど。
「林さん!!」
女の子の声が聞こえた。思わず身構えてしまう。
血の気が引いた顔を声の主に向ける。
「一条さん?」
青野先輩への謝罪を取り持ってくれた恩人が、息を切らして追いかけてきてくれたんだ。
「大丈夫。顔色悪いよ。深刻そうな顔して、教室を出ていったから、気になって追いかけちゃった。なにかあった?」
彼女は優しい。こんな私のために、わざわざ……
でも、彼女にこれ以上迷惑をかけたくない。一条さんは、誰一人味方がいなかった青野先輩を助けるために無理していた。私たちの行動のせいで、これ以上彼女にリスクを背負わせるわけには……
「……」
いろんな考えが頭に浮かんで、何も言えなくなってしまう。
青野先輩の原稿を助ける時に、私は報復が怖くて、間接的にしか一条さんを手伝えなかった。結局、行動できたのは、彼女の意思だ。
初恋の相手と仲良くなっている同級生に嫉妬心すら向かわないのは、彼女と自分の器の違いが大きい。負けて当たり前だと思ってしまうから。
「そっか。林さん。これは、私の独り言ね。そう思って聞いて」
彼女は唐突に語り始める。
「うん」
「英治先輩と出会えて、私わかったことがあるの。今までの自分って、誰にも助けを求めずに強がって生きてきたってわかったんだ。助けてって言わないと、他人はあなたのことを助けることできないんだよ。そして、あなたがそう言ってくれないと、私が助けてほしいときに、あなたに甘えられなくなっちゃうんだよ。だから、教えて……あなたの気持ちを」
もう、すべてわかっているような……
心が温かくなってしまう。
思わず、彼女の優しさに甘えてしまう。
「一条さん、助けて」
彼女は、優しく笑った。
「当り前よ。親友を助けなかったら、私は一生後悔するから。何でも言って」
まるで、聖母のような言葉に、私は泣きついてしまった。
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