第164話 壊れていく加害者たち

―立花部長視点―


 事情聴取後、私は授業に復帰した。クラスの人たちはしばらく休んでいた私のことを心配してくれた。


 よかった、変な噂は流れていないわね。つまり、文芸部が教師たちから、にらまれているということは、一般生徒には伝わっていないはず。


 あとは、私が有利な情報を流して、切り捨てる予定の後輩たちを追い詰めて、世論という実質的な既成事実を作ってしまえば……


 私が考える逆転の方法は、これがベストだと思う。

 1年生の林さんに罪を着せることは難しい。でも、容疑者の一人に浮上させることで、時間を稼ぎたい。私の本命は、2年生のあの子だから。


 あの子は、最悪の場合が発生したときに、私の代わりにいけにえにするために、ずっと温めていた人材だから。だって、私は今回の問題に直接かかわった証拠はほとんどない。近藤君へのメッセージだけど、それは全部消去している。


 彼女は、私の保険としてずっと存在していたのよね。天田美雪と近藤君を結び付けたのも私じゃない。紹介したのは彼女。


 近藤君とわかりやすく密会していたのも、私じゃない。彼と密会するときは、目的の場所に別々に入るようにしていたから、一度もうわさになったこともない。でも、彼女は違う。明白に独占欲も見せていたから、少なくとも匂わせくらいはしてただろうし。何度か噂にもなっていた。捨てられたらしいけどね。


「そうよ。私は、もしもの時にいろんな保険をかけてきた。それを使えばいいのよ」

 思い立ったかのように、自分の頭の中で物語を作り上げる。

 近藤君と疎遠になって友達を売って、彼の思い通りに動かされて、命令通りに英治君へのいじめに加担してしまった浅ましい女。筋書きは、誰もが納得できるものを用意できている。


 あとは、林さんにも疑惑の目を向けて、既成事実を作る時間を稼ぐ。

 大丈夫。まだ、学校側の調査はほとんど始まっていない。まだ、時間的な余裕がある。


 自分の人生を賭けた大一番がもう少しで始まると思うと震える。


「こうなったら徹底的に悪女になってやる」

 ほぼ無意識で板書をノートに書き写しながら、私はどす黒い笑みを浮かべた。


 ※


―首相官邸―


 執務室で仕事をしていると秘書官が慌てた様子で、入ってくる。


「総理、大変です。これを見てください」

 書類の上に、本が置かれて、少しムッとするが、その様子に並々ならぬことが伝わってくる。


 秘書が持ってきたのは、あまり有名ではない週刊誌だった。芸能人のスキャンダルがメインの低俗と切り捨てて読んだこともない雑誌。にもかかわらず、まさかそんな場所から火の手が上がるなんて思わなかった。


『話題の近藤市議の裏金。総理派閥へと流れたか? 疑惑の市議との蜜月を関係者が語る』


 その記事を見ているだけで、わらわらと怒りが湧き上がってくる。


「どういうことだ!! 誰がしゃべったっ!!」

 秘書は真っ青になって、言い訳を始める。


「まだ、わかりません。もしかしたら、飛ばし記事の可能性もありますし。だから、落ち着いてください」


「この状況で、誰が落ち着いていられるんだ。いいか、警察や検察に圧力をかけてもいいから、早く捜査を終わらせろ。近藤と息子にすべて認めさせて、全部、あいつらが悪いことにして、世間の目をこちらに向けさせるな!!」

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