第163話 立花部長の悪手
―高柳視点―
ついに、疑惑の本丸と一対一で話をする機会がやってきた。
さきほどの青野とのいざこざで、さらに疑念が深まっている。自分の直感的に言えば、立花は黒だ。
青野の小説の才能に関して、嫉妬して、恋人だった天田美雪の仲を引き裂いた。
簡単に、仮説ができてしまう。
いや、あくまでも、俺の勘だ。だが、将棋をしていた時代から、ほとんどの勘は正しいと思っている。これは、俺が尊敬している将棋の名人も、勘は80パーセント正しいと言っていた。
この勘が正しいのなら、すべての説明がつくんだ。
近藤と天田がどうやって結びついたのか。なぜ、近藤は執拗に青野に対して、嫌がらせをしていたのかも……
すべては、この女生徒の嫉妬から始まったとすれば、整合性のある説明ができてしまう。今は状況証拠しかないが、ここまで物語が一貫しているなら、それは限りなく真実に近いのではないか。
確かに勘だけで、嘘を真実だと誤認してしまう可能性はある。今回の事件で、たくさんの生徒の未来が歪んでしまったのはそれが原因だから。だからこそ、決めつけてはいけない。決定的な証拠が出るまでは、な。
「部活内のメンバーを疑いたくはないんですが……2人います」
俺の質問に対して、目の前の立花は内部告発のような形で二人の生贄を教えようとしている。俺は、その二人が本当に青野のいじめに関与したのか懐疑的になりながら、続きを促した。
「2人?」
「はい。さすがに、名前は言えません。でも、根拠はあります」
彼女は、思慮深い文芸部の部長を装いながら、続けた。
「聞かせてもらおうか」
「ええ、一人目は、近藤君と付き合っているという噂があった子です。天田さんとも同じ学年で、それなりの付き合いがあったようですよ。彼女経由で、近藤君と天田さんが結びついたとしたら、それなりの説得力がありますよね」
理路騒然としたふてぶてしい態度で彼女は続ける。
「たしかにな。もう一人は?」
あえて、同意するふりをする。彼女に墓穴を掘らせるために。さきほどの容疑者はたしかに説得力はあるが、一つ問題があったから。
「もうひとりは、このいじめ問題があってから、急に部活に来なくなった1年生の後輩です。もしかしたら、後ろめたいことがあったから、突然来なくなったのかもしれません」
ああ、そうだな。確かにそういう説明もできるよな。一見、もっともらしいことを言っているが、それも矛盾がある。
しょせんは、高校生ということか。
「そうか。では、こちらでも色々調べてみよう。体調が悪いのに、助かったよ。ありがとう」
彼女は逃げきったように錯覚したのかもしれない。少しだけ嬉しそうな表情になっていた。
でもな、立花。どうして、そんな怪しいことをお前だけが知っているんだ。どうして、ほかの文芸部は俺たちにそれを話さなかったんだ。明らかに不自然だよな。
それこそが、お前の悪手なんだよ。まるで、こじつけたかのように、切り札としてとっておいたかのように不自然すぎる。勝負師としての勘がそう言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます