第160話 追い詰められていく部長
―立花部長視点―
結局ほとんど眠れなかった。
立ち上がることも難しいけど、なんとか学校に向かう準備を整える。今日は絶対に登校しなくてはいけない。そうしないと、部活メンバーがバラバラになる。
だから、無理をしてでも、動かなくちゃ。
朝食を流し込むように食べて、学校に向かう。外は、ぽたぽたと雨が降っていた。
「どうする。まずは、部室で……駄目ね。あの不審な電話があったんだから、もしかしたら部室に盗聴器があるかもしれない。もしかして、すでに裏切り者がいるかも。じゃあ、どうすればいい。もう、誰も信じられない」
動悸が止まらない。
もうすぐ校門というところで、貧血を起こして、倒れてしまう。
だめだ。止まれない。ここで終わらせるわけに、いかない。
「だ、れか……」
思わず弱音が漏れて、助けを求めてしまう。
「大丈夫ですか?」
男子生徒の声が聞こえた。
「ええ」
目がかすんで、誰かはわからなかった。
「保健室に連れていきますよ。誰か……」
数人の生徒と教師がやってくる音がする。担架のようなものに乗せられて、私は気を失った。
※
―保健室―
白い天井と薬品のにおい。
「大丈夫?」
養護教諭の声がはっきり聞こえる。
どうやら、保健室のようね。
思わずもう一度、目を閉じそうになる。そこで、すぐに自分が置かれた状況を思い出して、飛び起きた。
「いま、何時ですか」
私の呼びかけに、三井先生は優しい声で「もうすぐ1限が終わるところね。たぶん、貧血だから、もう少し安静にしていて」と言われて、ゾッとしてしまう。
やってしまった。学校が動き出す前に、文芸部のメンバーの締め付けを強めようと思っていたのに。不安が心に影を落とした。
「ごめんね。担任の先生に連絡するから、少しだけ席を外すわ。絶対に安静にしていてね」
そう強く言われてしまい、保健室のベッドの上に取り残された。
どうすればいい。いや、もう授業が始まってしまえば、こちらに残された手段はほとんどない。無理やり召集をかけるわけにもいかないのだから。それをすれば、余計に怪しまれる。
「こうなったら、自分の事情を聴かれることだけに集中して、放課後に挽回するしかない」
切り替えるために、そう決断するも恐怖が身体を震わせる。何をやっているのよ。こんな情けないことするのが、私。これじゃあ、本当に自分に才能がないと認めているみたいじゃないの。
保健室の外で人影が見えた。誰?
思わず身構えてしまう。
「失礼します。教科書、こっちに忘れちゃって、取りに来ました。あれ、先生いないのかな」
一番会いたくない男子生徒が保健室に入ってくるのが見えた。思わず隠れようとするも、隠れる場所もない。
私の欲しかったものをすべて手に入れた彼は、こちらに気づいて、固まっていた。
「部長……?」
「英治君……?」
思わぬ邂逅に、頭は混乱し、私たちはそこに固まることしかできなかった。
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