第159話 女たちの思惑
―一条愛視点―
「ふぅ」
通話が終わり、思わずため息が出てしまう。
でも、この電話で、立花部長の人となりがよくわかった。
自分の才能を信じていた人間。彼女は、それを失ってしまっていることもわかった。だから、あんなに攻撃的なんだと思う。
やはり、青野英治という才能に嫉妬しているんだと思う。だから、私の挑発が効果的だった。
「あなたは、青野英治には及ばない」
私の発言は本心だ。文芸部の部誌を取り寄せて、彼女の作品を読んだ。
たしかに、おもしろい小説だった。でも、やはり、青野英治には及ばない。本人も絶対に自覚している事実を突きつけた。やはり、動揺した様子を見せた。
「これで、向こうは何かしらの動きを見せてくるはずね。監視を強化して」
黒井は、うなずいた。さすがに、文芸部に捜査の手が回っていることもあって動揺しているはず。ここにおいて、真実を突きつけられた彼女は、動かなくてはいけなくなったはず。それも、匿名の女が真実に限りなく近づいているとすれば、何かしらの対策をしなくてはいけなくなるはず。
つまり、無理をせざるを得ない。くさびを打ち込んだ形になったわけで、主導権は完全にこちらが握っている。いままで、黒幕を演じていて、高みの見物をしていたはずの彼女が、初めて主導権を奪われた形になったはず。
※
―立花部長視点―
眠れない。
どうして、バレてしまったの。それも、誰かわからない女に。一体あの女は誰?
どうすればいいの、これから。あれがばれたら、私まで終わり。
「一番怪しいのは、文芸部の裏切り者よね。ほかに考えられるのは、池延エリ? 天田美雪? それとも、今回の件で処分されそうになっている女子生徒。わからない、考えれば考えるほど、怖くてたまらない」
でも、絶対に大丈夫。証拠になるのは、近藤君とのメッセージのやり取りだけで、それは処分した。復元もできない。だから、私が捕まるわけがない。
そう確信しているのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
「大丈夫。近藤君を切り捨てた。すべての罪は、彼に擦り付けることができたはず。もし、文芸部に捜査の手が伸びても、誰かをいけにえにして、逃げ切る。私が直接手を下したわけじゃない。だから、どうとでも逃げ切れる。そうよ。私よりも明白に近藤君に近い文芸部の女がいるじゃない。保身のために、彼女を経由して、天田美雪を近藤君に誘導したんだから。それを有効活用すればいい。だいたい、証拠がないんだから、どうとでもなる」
自分に言い聞かせるかのように、震えながらつぶやく。
眠れない夜が、続いていく。
※
―池延エリ視点―
すべてわかった。証拠はない。でも、証拠なんていらない。
私はすべてを失ったんだから、もう何も怖くない。
近藤君もサッカーを含めて、全部失う。なら、私が解放してあげなくちゃ。彼じゃ、この後の地獄は……
なら、私が終わらせなくちゃ。それが、私の愛。
そして、明白な悪意を持って、私と一樹の関係を壊したあの女も。
彼の輝かしい未来をつぶしたんだから、それ相応の償いが必要よね。
準備をしよう。全部、終わらせる準備を……
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