第158話 愛vs立花
―立花文芸部長視点―
さっきから何度もスマホが鳴っている。
確認しても、常に非通知。そのしつこさに、恐怖を覚えながら、無視し続ける。非通知拒否の設定にしてしまおうとも思ったが、直感がそれを拒否する。
「どうしよう」
この電話が、仮に、私の関わっていた近藤君たちの話についてだったら、無視するのは悪手だ。もしかしたら、警察かもしれない。
それか文芸部の裏切り者か。誰か気づいたのか。もしかしたら、英治君? それとも、天田美雪?
ただ、わかっているのは、この電話の向こう側にいるのは、明確に敵意を持っていること。震えながら、スマホを取った。
「こんばんは、立花さん。突然のご連絡申し訳ございません」
女の声が聞こえた。
とても丁寧な言葉遣い。でも、こちらを警戒するような緊張感が伝わってくる。
「誰よ、あなた」
「名乗れません。ですが、お伝えしなくてはいけないことがあります」
「そんな勝手なこと。切りますよ。どこで、私の番号を知ったのよ」
こちらが高圧的な態度に出ても、彼女は冷たい声で淡々と話を続けている。
「わかりました。では、電話を切る前に、ひとつだけお伝えします。私は、"すべてを知っている"」
どきりと心音が高まる。時間が止まったかのように息苦しくなる。
何を知っているの。そんな言葉も出てこなかった。わざわざ、こんな仰々しい方法をとっているのだから。でも、相手が録音しているかもしれない状況なら、注意しなくてはいけない。
「何を言っているの。意味が分からない」
「そうですか。では、一方的に、話をさせていただきます。あなたが、近藤とつながっている証拠をつかみました。今回の青野英治さんに対するいじめ問題。あなたがすべて主導していた。違いますか?」
近藤君と私がどうしてつながっているとわかったの。証拠がある? それは嘘よ。あるわけがない。つかまれるわけがない。激高しそうになりながら、なんとか平静を装う。
「何を言っているのよ。いいがかりよ。かわいい後輩をわざわざいじめるわけがないじゃない。たしかに、私たちは弱くて、彼を信じることはできなかったけどね。だからと言って、そんなわけはない。あれは、サッカー部と天田美雪が勝手にやったこと!!」
声は恐怖で震えていた。
「そうですか。では、遠藤さんと池延さんについても知っていると言えば?」
思わぬ方向から攻撃が飛んできた。
どうして、その名前が出てくる。まさか、中学の同級生? いや、池延さん以外に、同じ高校に入学した女子学生はいないはず。じゃあ、誰よ。この電話の向こう側にいる女は?
「中学の同級生の名前だけど、いきなり何? あなた、本当に誰よ。勝手に、私を悪者にしないでよ。事実無根だから」
とにかく、しらを切り通す。すべて否定して、逃げ続ける。
「なぜ、あんなことをしたんですか。嫉妬ですか。好奇心ですか。それとも、優越感が欲しかったんですか。人の純粋な好意を踏みにじって、才能があるはずの後輩の将来を台無しにしようとして……」
まるで、すべてを見通しているかのような死神の言葉だった。
「だから、違うって言ってるでしょ!!」
「やっぱり、あなたとは、分かり合えないですね。ですが、分かり合えなくてよかったと思います」
「そうね、私も同じ気持ちよ。失礼な女。私が犯人というなら、ちゃんとした証拠を持ってきて」
「わかりました。あなたを断罪します、絶対に」
「やってみなさいよ。無駄な努力だと思うけどね」
電話をベッドにたたきつけたいと本気で思う。
「……かわいそうな人。あなたは、青野英治には及ばない」
最後に、向こうの女は、一番聞きたくない言葉を残していった。
電話が切れた後、頭に血が上る。
「うるさい、私は……」
今まで自分の才能の象徴だと思っていた文芸コンクールの賞状を乱暴に取り出して、破り捨てた。
そして、やってしまった後に、どうしようもない後悔が残る。まるで、死刑台を上っているかのように、絶望感に襲われた。
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