第140話 真実を目指す3人
―一条愛視点―
先輩と別れて、教室に入り、昨日の報告書を頭で整理する。
遠藤さんと堂本さんは、近藤と中学の同級生で、彼らの中学からこの高校に進学した生徒数は10人くらい。その中で気になっているのは、近藤と文芸部部長の立花、そして、もうひとり。
遠藤さんは何らかの理由で、高校浪人をしている。
「高校浪人だけでも珍しいはずなのに」
たしかに、病気や事故などが原因で、不幸にも受験することができないこともあるだろう。
昨日の堂本さんの話を聞いていて、ひとつ気になる言葉があったのを思い出した。
先輩と遠藤さんが話している時に、何気なく聞いた言葉だ。
※
「堂本さんは、ここによく来るんですか?」
「昔は、一樹ともうひとりの幼馴染とよく来ていたんだけどね。中学の時に、いろいろあってね。私たち、ずっと会っていなかったの」
※
もう一人の幼馴染はどうしたんだろう。
それが、もしかして、文芸部の立花部長? 近藤? もうひとりの女子生徒? それとも別の学校に進学している生徒。
調べないと、わからないことだらけだ。
いやな予感がする。早く調べないと。先輩にひどいことをした人間を私は絶対に許さない。しっかり償わせる。
やはり、文芸部はしっかり調べ上げないといけない。私が、あの部室に潜入したとき、ほとんどの英治先輩の私物や原稿は処分された後だった。学校の雰囲気に流されたと思っていた。でも、彼の才能を考えれば、周囲が嫉妬心を持っていたことすら考えられる。
「なら、積極的に彼を追い落とそうと考えている人がいてもおかしくないはず」
そして、昨日からずっと抱えている違和感のような感覚。
遠くにいるようで、周囲の問題の近くにいる人間。
文芸部の立花部長。
英治先輩、遠藤さん、サッカー部の近藤、文芸部、事件が起きる前の時点で、すべてに接点を持っていた唯一の生徒。
まるで、何かの問題が彼女を中心になって起こされているかのような。不自然な違和感を感じる。
※
―空き教室(高柳視点)―
俺は、休み時間に、一人の生徒から呼び出されていた。
指定された空き教室に入ると、そこに一人の男子生徒が待っていた。
「どうした、遠藤。放課後の青野の補習の件か。それとも、サッカー部の件か。できれば、前者であって欲しいんだけどな」
先生は、冗談のように言うが、目は笑っていなかった。
「青野君の件とは、少し違うのかもしれません。でも、気になることがあって、調べてほしいんですよ」
「気になること?」
「実は、昨日3年の立花が駅で不審な行動をとっていたんです」
遠藤は、言葉を選んでいるように見える。
「文芸部の部長か? 不審な行動って?」
「青野英治の後をつけていたように思えたんですよ。なにかに焦って、絶叫していた」
また、文芸部か。天田も近藤との接点は、文芸部員からの紹介から生まれたらしい。きな臭いな。
「それで?」
俺は遠藤に先を述べるように促す。
「先生、俺、浪人していること、知ってますよね」
彼は苦しそうな表情になっていた。言いたくはない辛い事実だ。生徒間の関係が発端で、不登校となったと聞いている。その境遇は、青野に似ていたように感じる。
「ああ。今回の件もあって、よく調べたところ、近藤とトラブルを起こしていたこともな」
なるべく言わないようにしていた。生徒の古傷をえぐりたくはなかった。
だが、遠藤はその傷口を見せてでも、青野を救いたいんだろう。
「そのトラブルの近くにも、立花はいたんですよ。先生、文芸部を徹底的に調べてはくれませんか。この事件、まだ、何かある気がするんです」
生徒の迫力に圧倒されながら、俺は「わかった」とうなずいた。
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