第135話 いじめという犯罪

―高柳視点―


 問題が少しずつ解決に向かっていく。それは、つまり加害者側の特定と、それにともなう処分が始まりつつあるわけで。


 また、全校集会がはじまった。校長先生が、生徒たちに今回の件を説明する場を設けた形だ。


「まずは、学校長として、皆さんに謝らなくてはいけないことがあります。今回のサッカー部を中心とする生徒が犯したいじめの問題について、多くの生徒の皆さんの平穏な学校生活を妨げてしまった結果となり、申し訳ございません」

 実際、SNSの拡散や実際の行動を起こした生徒は、少数派だ。数十人規模の処罰者が出る予定だが……だから、校長はあえて謝ることにしたらしい。


「ですが、私たち教師は今回のような方針を曲げるつもりはありません。加害者に関しては、今後も厳しい態度で臨ませていただきます。私のほうから皆さんに伝えたいことは、ひとつです。たとえ、どんな事情があったとしても、いじめや嫌がらせは許されるものではありません。安易な気持ちで、他人をいじめることは、お互いの一生を狂わせることになるのです」

 いつもは、適当に聞いているはずの生徒たちは、今回の件は、関心が強いらしい。ほとんどの生徒が熱心に聞いている。もしかしたら、次は自分が処分されるかもしれないと、気が気でない生徒もいるだろうな。


「いじめは、れっきとした犯罪です。暴行罪や傷害罪、強要罪、名誉棄損。いろんな罪に該当します。今回の件では、悪質な事例を確認しており、被害者生徒の保護者と協議の上、警察に被害届も出されております。もちろん、学校側も警察に全面的に協力する方針です。また、県を主導とする第三者委員会による実態の調査も開始される予定です。今後、しっかりとした事務手続きを踏み、該当生徒には厳しい処罰が下されるでしょう。友達がやっていたから軽い気持ちで。疑われるような行動をしたあいつが悪い。そんな、言い訳は通用しません」

 やはり、震えている生徒もいる。おそらく、恐怖で止まらなくなっているんだろう。自分の犯した罪の重さでつぶれそうだ。


 教師陣は、様子がおかしい生徒をチェックしている。ここではまだ確定ではないが、関与している可能性があれば、念には念を入れて。


「また、刑事罰ではなく、民事でも賠償金を払わなくてはいけなくなるかもしれません。そうなれば、学生の皆さんでは難しいですね。保護者の方々にも大きな負担が発生します」

 これは、高校生にはかなり重い事実だろう。特に、うちみたいな進学校では。生徒たちは、ずっと優等生として評価されてきたはず。だから、そのルートから外れることは、恐怖でしかないはず。


「そして、最も守られるべきは、いじめの被害者である生徒です。もし、皆さんの中に、いじめを受けている人がいれば、申し出てください。本来、教師側で気づかなくてはいけないことだとは承知しています。ですが、やはり、大人の我々では限界がある。被害者が、一番苦しいはずです。絶望に襲われているはずです。だからこそ、少しでもいいので、私たちを頼ってください」

 校長は深く頭を下げる。普通であれば、ただのパフォーマンスにもとられかねないものだが……


 彼は、覚悟を固めている。そして、今回の問題の件でも、その覚悟を示した。

 近藤市議の脅しについて、毅然とした態度で拒絶した。

 自分の経歴に傷がつくこともいとわずに、生徒たちを処分する姿勢を貫き通し、筋を通した。


 行動で示した覚悟は、高校生たちには重すぎる。

 重苦しい空気が体育館を包んだ。

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