第131話 とあるサッカー部の家族崩壊
―とあるサッカー部(相田)視点―
俺は学校から謹慎を言い渡されて、部屋に閉じこもった。
家族は、俺のことを怪しんでいたが、すべて無視して、部屋から出なかった。夜には学校から連絡がきたらしい。
おふくろが、ドアをノックし続ける。だが、俺は部屋の鍵を閉めて、徹底的に無視した。
「あんた、学校から連絡来たわよ。どういうこと。同級生の男の子をいじめていたの? 学校の備品も壊したって。いい加減、部屋の鍵を開けて。どうなっているかだけでも、せめて説明してよ。先生、言ってわよ、あんたたぶん退学になるって」
その言葉を聞いて、心がめちゃくちゃになる。中学までは優等生を通していた。勉強もサッカーもできる文部両道の自慢の息子。それが、今では同級生をいじめていて、学校から謹慎を言い渡されて、処分を待つ不良息子だ。動揺もするだろうな。でも、俺は怖くて説明もできない。だって、そうだろ。どうしてこうなったかもわからないし、処分される直前までただ部活の雰囲気に流されていただけなんだ。
直前まで悪いことをしているという認識が薄かった。青野が悪者で、あいつにはどんなことをしてもいいと本気で思っていた。自分が正義の味方だと錯覚していた。高柳先生に呼び出されて、その土台が少しずつ崩れてきた。でも、部活で口裏を合わせれば大丈夫だと思っていたんだ。
近藤先輩の不祥事で、その自身も揺らいで、ついに、あの人は警察に逮捕されてしまった。もう終わりだ。なんで、あんな奴を信じたのか今ではわからない。俺はきっと退学になる。さっき、ネットで調べたけど、青野から告訴されて、裁判になるかもしれない。そうなったら、慰謝料が発生するかもしれないし、社会的にも俺は殺される。
「違うんだよ、違うんだよ」
まるで、壊れたかのようにそう言い続ける。
俺は騙されたんだ。そう言いたかった。でも、あの日の青野の絶望した顔が、何度も思い出されて、「絶対に許さない」と言われている気がした。あたまが、どうにかなりそうだった。
どうして……
全部、近藤と天田が悪いんだ。あいつらが、俺たちをだまさなければ、こんなことにはならなかった。俺は普通に高校を卒業できたし、こんなに苦しい思いはしなかったはずなのに。
「いいから、ここを開けなさい。何か言わなくちゃわからないでしょ」
あいつのせいで、あいつのせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ。
「うっせぇ、ばばあ」
そういって、ドアを急に開いた。そこにへばりついていたおふくろは身を投げ出して、床に崩れ落ちる。その表情は、今まで見たこともないくらい悲しそうな顔をしていた。やってしまった。もう、後には引けない。
「なんで」
おふくろは、涙目でこちらを見ていた。俺は何も言えずに、ドアを閉じて、鍵を閉める。外から、泣き崩れる声が聞こえる。良心の呵責が俺に襲いかかる。
俺は実行犯だから、厳罰が待っているはずだ。許せない、許せない。近藤だけは許せない。一緒に地獄につれて行ってやる。
今までは、神様のように慕っていたからこそ、反動で復讐心がにえたぎっていた。
俺たちの人生をもてあそんだ近藤だけは、絶対に、絶対に……
許さない。
※
―一条愛視点―
先輩が帰った後、黒井から現状の報告書がメールで届いたことに気づく。
立花文芸部部長の中学時代の調査結果から始まっている。そこは優等生としては輝かしい経歴だった。読書感想文や標語などのコンクールで入賞した実績がたくさん書かれている。
成績も上位。
普通に考えたら、怪しいところなんてない。
でも、彼女の同級生で、私たちの高校に進学している生徒の一覧を見て、思わず背筋が冷たくなる。
「立花部長は、近藤と遠藤さんと同級生だったんだ。でも、遠藤さんは英治先輩と同級生だから……浪人かそれとも留年? 詳しく調べたらきっと何かわかるはず。やっぱり、どこかおかしいよ」
私は真実に迫るため、黒井に調査を依頼した。
立花部長や遠藤さんの交友関係を調べ上げるように。また、堂本ゆみさんのことも。たぶん、そこからすべてがわかるはず。
希望を求めて、パンドラの箱を開いた。
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