第123話 祝福のピザ&つぶれていく加害者たち
―キッチン青野―
俺は家族と一条さんに今日の打ち合わせの報告をする。
「えっ、アンソロジーに参加するだけじゃなくて、短編集も出版することになったんですか!?」
一条さんは驚きの声を上げた。
母さんは目を輝かせながら、続ける。
「すごいじゃない。じゃあ、英治だけの本が出るのね!! お母さん嬉しいわ。読むやつと保存用と布教用に3冊買わなくちゃ!!」
女性陣は俺を置いて盛り上がっていった。
「そうですよ。いきなり、2冊も本が出るなんてすごいです。もう、れっきとした高校生のプロ小説家ですよ」
そういわれると、こそばゆい。
「おめでとう、英治」
兄さんが、いつになく笑顔でそう言ってくれた。
俺の好きな特製ピザとコーラの組み合わせが運ばれてきた。どうやら、お祝いに作ってくれたらしい。
「みんな、ありがとう」
ピザは、トマトソースで具はたっぷりのシーフードと野菜。
いいにおいがする。
「それで、学校とかには報告したほうがいいのかしら? 守秘義務とかあるわよね、きっと」
母さんはさすが大人だ。そういうところはよくわかっている。
「公式で発表するまでは、できる限り隠しておいてほしいって言われたけど、学校への許可を取るくらいだったら話しても大丈夫だって、編集さんが。俺は未成年だから、保護者にいろいろ書いてもらわなくちゃいけない書類もあるみたいだ。悪いけど、よろしくね」
「もちろんよ。そんなのいくらでも書いちゃう。あー、今からでも楽しみね。じゃあ、私たちは夜の営業の準備があるから。愛ちゃん、英治とゆっくりピザ食べていってね」
「はい! ありがとうございます」
一条さんは、ピザを興味深く見つめていた。
もしかして……
「一条さん、もしかして、ピザ、好き?」
「初めてというか……憧れていたというか……いつか、友達とピザ食べてみたいなとは思っていたんですよ。だから、また、夢がかなったというか」
本当にお嬢様だなと、苦笑する。興奮していて、うまく答えることができないようだ。お先にどうぞと進める。このピザは、クリスマスや常連さんの誕生日にだけ提供する特別メニューだ。
「おいしい。ピザってこんなに美味しいんですね。海鮮と野菜、チーズのうまみがすごいです」
どうやら気に入ってもらえたらしい。罪な味をおぼえてしまったようだな。
俺たちは楽しい夕食を食べる。もう、一条さんがここにいることが当たり前になりつつある。そこが不思議と嬉しかった。
※
―とある文芸部員視点―
結局、部長からの返信はない。大丈夫かな。心配になる。
あたしは、自分の部屋で震えていた。
「近藤先輩も逮捕されちゃったし、サッカー部の人たちもみんな……」
私は、全部、ふたりに言われたとおりにしただけ。
そうすれば、近藤先輩はまた、私とデートしてくれるって言ってたし。
部長の言うとおりに、美雪を近藤先輩に引き合わせた。それで、恋人のようなデートをした。先輩の言うとおりにすれば、全部完璧だもん。
もう、ほかの部員たちとは口裏を合わせている。唯一のネックは、最近、退部した1年のあの子だけど、もうすでに脅してある。下手なことをすれば、学校で孤立するし、止めることができなかったあなたも私たちと同罪だって言ったら青くなっていた。あの子は気が弱いからここまでやっておけば大丈夫。
サッカー部みたいにはなりたくないっ!!
※
―とあるサッカー部員視点―
なんで、俺たちまで自宅謹慎なんだ。親になんて言えばいいんだ。
全部、近藤のせいだ。俺たちはどうなる。いじめの加害者だから、きっと良くて停学。悪くて退学。
俺の人生めちゃくちゃだ。
全部、近藤が悪い。俺のことを中学から奴隷のように扱いやがって。でてきたら、復讐してやる、絶対に!!
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