第122話 遠藤とゆみの帰り道

―遠藤視点―


 二人と別れて、俺たちは駅前をぶらぶらする。かなりリラックスできる時間だ。最近は、サッカー部の問題で緊張していたからか、良い感じで力が抜ける。

 

「青野君と一条さん、良い人たちだったね。また、遊びたいな。あのふたり、あの距離感で付き合っていないなんて信じられないね」

 ゆみは、そう言って、けらけらと笑う。

 俺は、青野君があんな風に幸せそうに笑っている姿を間近で見ることができて、なんだか感慨深い。


「なによ、一仕事終えた職人さんみたいな顔で。何に満足しているのよ」

 幼馴染にはすぐにばれてしまうな。ゆみがサッカー部にいたら、俺は復讐を完遂できずに、気づかれていたよな。さすがは、お父さんが警察官なだけはある。


「いや、なんでもないよ。ところで塾の時間大丈夫?」


「うーん、そろそろ行かないとだけど、さぼっちゃってもいいなぁ」

 あのまじめなゆみがそんなこと言うなんて珍しいな。いや、俺が知っているのは、3年も前の彼女だ。そんなに長い時間会っていなかったんだから、変わってしまうのは当たり前かもしれないが。


「そんな顔しないで。冗談よ、冗談。体調不良以外で学校とか休んだことないもん。でもね、一樹。浪人してもいいなぁなんて思っている私もいるんだよ。だって、それなら、大学は同じ学年に戻れるじゃない。大学は同じところに行って、同じ時間を過ごしたいな、なんてね」

 冗談めかしに言っているが、幼馴染だからこそ、それが本心だとわかる。

 結局、あのエリと近藤の一件は、ゆみすらも苦しめていたんだなとよくわかる。あの時の引きこもりの俺に言ってやりたい。


 お前だけが被害者じゃないんだぞって。


「ありがとう」


「何を急に。お礼なら私も言わなくちゃ。今日はありがとうね。昔に戻ったみたいで本当に楽しかった。青野君たちがよかったら、また遊んでほしいな。よろしく言っておいて!」

 

「もちろんだよ」

 俺は、ゆみとの関係が復活したことを心の中で祝いながら、笑顔で返した。

 

「よし、じゃあ受験生は勉強頑張るよ。夜にでも連絡するね。また、デートしよ」

 俺たちは笑いあって別れる。ゆみは上機嫌で、塾に向かっていった。


 ※


―ゆみ視点―


 一樹と別れて、私は塾で食べるお菓子を買いにコンビニに向かう。

 本当なら3人で遊んでいたんだろうな。そう思うと、どうしようもなく寂しくなる。


 ※


「エリ。一樹を苦しめて。なんで、そんなに残酷なことができるの!」

「……」

「なんで、なんで。私の気持ち知ってたんでしょ。エリだから、一樹のことも我慢できたのに」

「……ごめんなさい」

「私の好きだったエリは、もういないんだね。私たち、もう会わないほうがいいと思う。学校でも話しかけないで」


 ※


 中学時代、エリと最後に話した内容は今でも覚えている。

 3人一緒だった時が懐かしいけど、あの日の決断を後悔はしてない。


「ねぇ、一樹。私、まだあの時の返事待っているんだよ? もう、我慢しなくてもいいよね」

 覚悟を固めた後、チョコレートを買って外に出る。


『だから、こっちはそれどころじゃないって言ってるでしょ!!』

 駅の方向から女の人の絶叫が聞こえた。みんな振り返る。

 そして、私は驚いた。だって、声の主は知っている人だったから。


 あまり、話したことはなかったけど、中学の時に同級生だった女の子だ。


「もしかして、立花さん?」

 よく顔を見ようとしたところ、彼女は逃げるように立ち去った。


 そういえば、一樹たちの学校に進学したんだよね、彼女。

 何かあったんだろうか。今日の夜に聞いてみようかな。

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