第120話 近藤と新しい弁護士

―近藤視点―


 しっかり取り調べをされて、また留置場に戻ってきた。

 暴行事件やいじめ、学校の備品破壊、嘘をSNSに投稿した件、公務執行妨害……

 全部、厳しく取り調べされている。さらに、今までの余罪があるかどうかも詳しく聞かれていた。そのおかげで調べることにも時間がかかり、俺は留置場にとどめ置かれている。


 どうして、こんなことになってしまったんだ。弁護士からも逃げられた。どうやら、向こうは父さんの会社と契約しているから、息子の俺に対して、何も責任がないと言っているらしい。薄情すぎる。今までうまくいっていたときは、こっちにすり寄ってきていたのに、うまくいかなくなってからはさっと逃げてしまった。


 親父も、党を除名になったり、色々大変らしい。あの弁護士が最後に言い残していった言葉が何度も頭の中でループしていた。


「ここから出られても、俺って帰る場所ってあるのかな」

 ぽつりと出てしまった言葉で、今の自分が絶望的な場所にいることを自覚してしまう。結局、親父は、俺に新しい弁護士を用意してくれない。


 俺は見捨てられてしまったのか。このまま、ここで孤独に死んでいくのか。ずっと、女や大人たちにちやほやされてきたこの俺が……誰にも会わずに、警察に厳しく怒られながら、自尊心が壊れていくのを待つだけ。


 いや、あきらめるな。俺にはサッカーがある。サッカーの才能が有れば、まだなんとかできるかもしれない。だいたい、海外のサッカー選手の問題児は、結構逮捕されているし。


 必死に希望に縋りついていると、看守に呼ばれた。どうやら、弁護士が会いに来たようだ。


 ふらふらになりながら、その弁護士との面会に向かう。


 ※


 よぼよぼの爺さんが面会室で待っていた。


「どうも平松といいます。君のお母さんから依頼されて、今日から君の弁護を受け持つことになりました。よろしくお願いします」

 どこからどうみてもやる気のなさそうな感じだ。

 なぜ、父さんじゃなくて母さんなんだ。親父に何かあったのか。


「近藤君、お母さんは心配してたよ。だから、しっかりしてね。まぁ、悪いところは全部認めちゃったほうがいいかもね。お母さんもそういってたよ。そのほうが早く出られるし、心証もいい。だいたい、君が悪いことしちゃったんだから、きちんとやらないとね」

 どこか投げやりな感じにそう言われて、俺も不信感が増していく。だいたい、母さんが、俺を本当に心配しているのか。ほとんど、別の男のところに行って帰ってこないあの女が。弁護士を選んだのもただの世間体だろう。


 俺は愛されていない。


「やだ、俺は絶対に悪くない。親父はどうしたんだ」


 老弁護士は、めんどくさそうに、こちらを見てため息をついた。


「はー。君のせいで逮捕されたよ。いじめや暴力問題の件で学校や被害者家族を脅迫した音声が流出してね。さらに、悪いことに所属していた党から見捨てられて裏金疑惑まで暴露されたんだよ、謝罪会見会場で。そして、そのまま警察に逮捕されちゃった。もうどうしようもできないだろうね」


「親父が逮捕っ!? そんなわけない。だって、親父は上級国民で……逮捕されるわけない」


「あ、週刊誌に書いてあったけど、本当にそんなこと言ってるんだ。君ね、いくらなんでも世間知らずだよね。だいたい、市議会議員にそんな特権ないよ。これは、弁護するのも大変そうだね。あー、前任者の先生は、うまく逃げたわ」

 へらへらと笑う弁護士に、無慈悲に現実をたたきつけられる。


「俺はサッカーで大学に推薦をもらう予定で……」


「だから、無理だって。悪いことして捕まっちゃった学生に、推薦を出す高校なんてないよ、普通。たぶん、退学処分だから。もう、それは変えられないから、受け入れて認めちゃったほうがいいって」

 その言葉を聞いて、面会用の透明な敷居を強くたたいて、必死に拒絶する。


「いやだ、いやだ、いやだ」

 慌てた留置場の職員たちが数人で、俺をその場所から引きはがして、そのまま檻につれていかれた。


 そんな俺をやる気のない弁護士は、失笑して、馬鹿にしていた。

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