第62話 反響と破滅へと向かうドミノ

―地方テレビ局―


「大変です! 生中継で取材するはずの、ラーメンイベントが急遽中止になりました。強風で、主催者側が危険だと判断したみたいで」

 

「なんだと!? どうするんだ。5分間の枠、空いちまったぞ。なにか、代わりになるニュースはないのか!!」


「それが……」


「くそないのかよ。どうする。こうなったら、別のニュースを深堀して……」


「あっ、ディレクター。ちょうどいい案がありますよ。さっき、消防のSNSに投稿された学生さんたちの人助け動画なんですが、すごい勢いで再生数が伸びてます。これを紹介しましょう。どうやら、人助けしたのに、名前も名乗らずに立ち去った学生さんたちがいたみたいで。消防が表彰したいから、彼らを探しているみたいです」


「時間がないから、すでに動画あるのは嬉しいな。それを使いたい。すぐに許諾を取ってくれ。向こうも、拡散力があるテレビに取り上げられるなら、すぐに了承してくれるはずだからな」

 すべてはリアルタイムで進んでいく。


 ※


―警察署 休憩室―


「さっきの消防に渡した動画、すぐにアップされたな。仕事早っ」


「ああ、どうやら県会の元議長さんが絡んでいるらしいぞ」


「だからこんなに早く動くのか」


「おい、どうした。箕輪みのわ?」


「いや、さっき見せてもらった動画の男なんですけどね。どこかで見たなと思って」


「おっ、早速、身元判明か?」


「いや、名前はわからないんですけどね。ほら、先輩。1週間前くらいに、繁華街で喧嘩で、若い男の子が一方的に殴られていた事件あったじゃないですか」


「ああ、あの本人たちはどこかに行ってしまって。たしか動画配信者の映像だけあるやつだな」


「ええ、正直、被害届もなかったから、あのままになってましたけど。似てませんかね?」


「そうか。よくおぼえてないな。休憩明けたら、もう一回確認しよう。消防の方に貸しを作れるかもしれない」


 ※


―高校の昇降口(上田視点)―


 くそ、せっかくの日曜日なのに、昨日の成績に激怒したコーチによって、練習になってしまった。もちろん、昨日のギクシャク感は残ったままで、近藤先輩はもちろん休みだ。


 正直言って、練習どころじゃない。精彩は完全に欠いていた。

 たぶん、次の大会はもうダメだろうな。そんな、あきらめに似た空気を全員が共有している。


「さて、帰ろうぜ」

 そう言って、昇降口で靴を履き替えていると、「おい、満田っ!! これはどういうことだ。説明しろよ」というキャプテンの怒声が聞こえてきた。


 俺たち後輩は、その普通ではない様子の声に驚きながら、そちらへと向かう。


 満田さんの下駄箱は開いていて、床には例の写真が大量に散乱している。

 その異様な光景に、全員が「えっ」と言葉を失った。


「お前だったのか。やっぱり、近藤にあごで使われていたから、逆恨みしてこんなことを!! 俺たちの人生めちゃくちゃにしやがって。陰で笑っていたんだな」

 キャプテンはヒステリックな声でまくし立てていた。


「違う。知らない、こんなの知らない。誰かに入れられたんだ。俺は無罪だ。えん罪だよ」

 その言葉を聞いて、青野のことを思い出してしまう。俺たちは、結局、近藤さんにうまく使われて、えん罪の片棒を担わされていたんじゃないのか。特に満田さんは、積極的に噂を流していたから。これはきっと罰が当たったんだ。


「信用できねぇな。もう、誰も信用できないんだよ!!」

 キャプテンは、満田さんを下駄箱に叩きつけると、そのまま帰っていってしまった。残された俺たちもお通夜のような空気が流れていく。


「こんなの、俺がやりたかったサッカーじゃない」

 一年の前平がポツリとそう言った。俺たちはギョッとした顔で、前平を見る。1年は今回の事件にほとんど関与していないから、俺たち先輩の内ゲバを汚物でも見るかのような顔で冷たく見ている。


 くそ、俺が悪いわけじゃない。近藤さんが悪いんだ。


 前平たちは何も言わずに、そこから立ち去っていった。

 残されたのは例の写真と絶望に沈む上級生の男たちだった。

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