第61話 クズ男のイライラ
―日曜日(近藤視点)―
「どいつもこいつも……どうして勝手な行動ばかりしやがるんだ。俺よりも他のやつらのことを信用しやがって。許せねぇ」
部屋の中は八つ当たりの影響で、いろんなものが散乱している。大事にしていた中学時代のトロフィーも粉々だ。くそ、くそ、くそ。くそ野郎。
「はぁはぁ。くそ、大学のサッカー部の野郎たちも、うちの部活のメンバーも、天田美雪も、全員滅べばいいのに」
こうなったら誰か女でも誘って……
とはいっても美雪が使えない以上、エリか文芸部長かその後輩くらいしか。
文芸部部長はダメだ。あいつは食えない。弱みを見せたら何をされるかわからないからダメだ。
くそ、こうなったら、エリか。
ダメだ、あいつは、彼女面がめんどくさいから少し距離をおきたい。
「仕方ねぇな。こうなったら、青野の悪い噂を裏アカ使って、ばらまくしかねぇな」
俺よりも下に誰かいるのは、支配者として最高の快楽だからな。あいつはしょせんドレイみたいなもんだよ。情けなく女を奪われた弱い男だからな。
そう思って、SNSを開く。この前までは、タイムラインが青野の悪口であふれかえっていた。
だが……
『おい、やっぱり、青野英治と一条愛が昨日デートしてたぞ』
『詳しく』
『昨日駅前に買い物に行ったら、2人がオシャレなカフェから出てきたんだ』
『私も、昨日2人が映画館に行ってたの見たわ』
『本当に付き合ってるんだな』
『一条さんって、あんなに男の人に厳しいのに、どうして悪いうわさが流れている青野と付き合ってるんだ?』
『一条さんの同級生に聞いたけど、どちらかと言えば、彼女の方が好きらしいよ。かなりアプローチしてるみたいだし』
『あの一条さんがあんなに入れ込むんだから、やっぱり何かあるんだろ』
『そもそも、青野の噂って本当か? 実際、怪しい写真しかなかったよな。あの噂が嘘ってことありえないか』
『私も最初からおかしいと思っていたんだよ。青野君と去年同じクラスだったけど、すごく優しいし女の子に暴力振るう人じゃないもん』
『よくわからねぇよな』
いつの間にか流れが変わっていた。どうしてだ。そこまで、一条愛の信用が高いのか。たかが、一年生の女だぞ。サッカー部員のいろんなアカウントを使って、あの噂を流したのに、数の力があの女一人の影響力に負けるだと!?
いや、まだだ。まだ、どうとでもなる。
「おい、みんな騙されるなよ。あの一条愛がやばい女かもしれないだろ」
匿名アカウントでSNSの会話ツリーに割り込む。
『はぁ、めんどくさいやつだな』
『どうせ、一条さんに振られて、逆恨みしているダサい人でしょ。無視無視』
『この噂流した奴ら調べれば、何かわかるかもね』
一蹴された。
くそ、くそ、くそ。どうして、誰も俺のことを信用しないんだ。俺は、次世代のサッカーのキングなのに。
むしゃくしゃして、ついにスマホを窓に投げつける。窓は粉々になって割れて、スマホは地面に叩きつけられた。
「しまった」と思いすぐに外に出てそれを回収する。スマホはボロボロで起動すらできなかった。
これで女にも連絡できなくなっちまった。このイライラをどこにぶつければいいんだ。どいつもこいつも本当に、くそ野郎だな。この天才をここまでイラつかせるんだから。
「ちくしょう。ムカつくっ!!」
自分がどんどん孤立していくように感じられて、俺はさらにイライラをつのらせた。もちろん、誰の声も返ってこなかった。
※
―消防署―
「警察の方から、話題の学生カップルの動画届きました」
部下の報告に、俺はうなずく。
「ありがとう。しかし、今どきの学生さんはすごいな。自分からこういう風に動けるんだもんな。俺たち大人も見習わないとないけないよな」
「そうですよね、消防長。それも、名前も言わずに立ち去ったらしいですよ。人ができすぎていて、逆に不安になりますね。俺なんて部活して、帰りに友達とラーメン食べて、勉強もせずに寝るみたいなダメな学生時代だったのに」
部下の自虐に俺は苦笑する。ちなみに、人のことは言えないので、自分も反省した。
「お前と一緒にするなよ。それも倒れたの、引退した県議会議員の山田さんだろ。県議会で議長まで務めた重鎮で、国会議員すら頭が上がらないすごい人だよ」
おかげで絶対に探し出して欲しいなんて言われちゃってるくらいで。こちらとしても、今後の良い見本になるので是非ともそうしたいところだ。
「へー、そんなに偉い人だったんですね」
まあ、若いやつらは知らないだろうけどさ。
「よし、とりあえず、学生さんたちの顔は見せないように加工して、SNSを使って情報提供を呼び掛けてくれ。なにかしら分かるかもしれない」
この部下はパソコンに強いから、うまくやってくれるだろう。
どれだけ反響があるだろうか。すぐにわかるといいんだが……
まさか、このSNSの投稿が数時間後には大幅に伸びて、数十万の反応が発生するなんて、この時はまだ思いもしなかった。
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