第59話 浮気カップルの対立
―美雪視点―
その場に倒れ込んだ私は、しばらくすると貧血が収まって、なんとか立ち上がった。英治たちにはなんとか気づかれなかったみたいね。
コンビニで、温めるだけで食べられるスープを買って、すぐに家に帰りそれを食べる。楽しいはずの食事の時間がただ生きるための義務になっている。今頃、英治たちは何をしているのかな。キッチン青野で、楽しくご飯を食べているのかもしれない。少しだけ背伸びしてオシャレなところに行くのかもしれない。もしかしたら、特別な夜に……
心がどうにかなりそうだった。空腹なはずなのに、食欲が出ない。
そんな時、近藤さんから電話がかかって来た。
「はい、美雪です」
「おう、美雪か? 今なにしてる?」
「食事してましたけど……」
「そうか。気持ちを落ちつけたいから、少しだけ話し相手になって欲しいんだけど」
いつもなら即答するはずの誘いだけど、不信感をおぼえた後の自分にとっては……
お母さんが入院していること、知っているはずなのに、どうなったか心配するそぶりも見せない。
「あの……私、体調悪いんです」
やっぱり、そういう感じなんだ。彼にとっては私なんてしょせん、そういう感じなんだ。
「頼む、少しだから。今は俺の話を聞いてくれよ」
その言葉によって確信に変わる。
「近藤さんは、結局私のことをおもちゃくらいにしか思っていなかったんですね」
もし、英治だったら、絶対にお母さんのことを心配してくれるし、私の精神状態も気遣ってくれるはず。言葉のトーンで、私の体調が悪いこともすぐにわかってくれるはずだし。心配で、お見舞いに来てくれるかもしれない。
そんな大事な幼馴染を、私は失ったんだ。
「はぁ。いきなりなんだよ?」
「私のこと心配してくれないじゃないですか。それに、先輩が同級生の女の子と一緒に仲良くふたりで家に入っていく写真見ちゃったんです」
「いや、それは……お前と出会う前の写真だよ。そいつとは別れてるし、実は嫌がらせを受けていて、過去の写真を部活のメンバーにばらまかれて困っているんだ。だから、お前にそれを相談したくて。こっちも余裕がなくて、いきなり、きりだしてごめん」
その謝罪はどこまでも空虚ね。
「そうなんですね」
「そうなんだよ。信じてくれよ」
汚い。この男は本当に……
「この写真の先輩の腕に、私がプレゼントしたミサンガついてますよね。それでも、昔の写真って言うんですか?」
「なっ……」
こういう時の自分の女の部分が嫌になる。部活の練習試合で勝てるように、私が編んで渡した手作りのミサンガが、写真の中にはきちんと写し出されていた。
「嘘つかないでくださいよ」
自分でも驚くほど冷たい声になっていた。
「じゃ、じゃあ、それは合成で……」
あんなに好きだったのに、声を聴いているだけでもイライラをおぼえてしまう。
「じゃあ?」
もう自分で本物だと言っているようなもの。嘘をつくならもう少しマシな嘘をついてほしい。
「……ちっ」
思いっきり舌打ちされた。その豹変ぶりに思わず言葉が漏れてしまう。
「えっ」
「そうやって、お前みたいなメンヘラはすぐに彼女面するから、嫌なんだよ」
思わぬ暴言に、心に冷たいナイフが進んでいくのがわかる。そういう男だとわかっていたはずなのに、実際にそれをまのあたりにすると、ショックはやっぱり大きい。
「……」
「だいたい、浮気って何だよ。俺たち、付き合ってたのか? 付き合ってないよな。勘違いして、被害者ぶるなよ。お前もいじめの主犯の一人じゃねぇか。青野と今までの関係性を考えれば、お前が一番悪質なんだよ、わかってるのか、クズ女!!」
その暴言を残して、通話は終了した。
「私、どうして、あんなやつのために全部投げ捨てちゃったんだろう……取り返しがつかないことしちゃったんだ」
寂しい部屋に、孤独な独り言が響いた。
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