第56話 崩れていくサッカー部
―サッカー部室(上田視点)―
結局練習試合はぼろ負けだった。格下相手に、4対1の大敗。
コーチはミーティングで激怒して、ペットボトルが叩きつけられた。だが、俺たちはそんなどころじゃない。
このまま、空中分解したらどうなるか。絶対に裏切り者が出る。そうすれば、部活ぐるみで、青野をいじめていたのがバレてしまう。そうなれば、部活の大会に参加できないどころか、俺たちも学校から処分されかねない。
※
「今回の件は、犯人が人生をかけて償わなくてはいけないことだ。どうして、それがわからなかったんだ。今回の件、俺たち教師は本気で向かい合う。よく覚えておいてくれ」
※
高柳先生の言葉が、心に突き刺さり、頭の中で何度もリピートしていた。
この前の取り調べは、まだ決定的な証拠がなかったから笑って逃げることができたけど、この状況はまずい。まずすぎる。
この撮影者が、いつ教師にチクるのか。もう、チクっているかもしれない。そうなると、俺たちの証言にわずかなスキが生じる。今まで完璧な理論武装だったのに、ほころびが生まれたら、俺たちは即興でこの後の追及を逃げ切らないといけなくなる。それもお互いの証言が矛盾しないように注意しながら。
解散してコーチが帰った後、俺たちは重苦しく部室で沈んでいた。
「そんなの無理だ。隠し通せるわけがねぇ」
思わずつぶやいた言葉に、同じクラスの相田がギョッとした顔でこちらを見た。
「おい、なんだよ。無理って……まさか、お前、近藤先輩や俺たちを裏切るのか!!」
被害妄想に取りつかれたように、ヒステリックな声をあげる。
満田先輩やキャプテンも俺に詰め寄りはじめた。他の部員たちもだ。
「違う、違うんだ。裏切るつもりはないんだよ。でも、この後の追及に逃げ切る自信がなくなったというか」
苦しい言い訳だ。声まで震えている。
「ふざけるな。お前と相田が勝手に、青野の机を壊したんだろ。俺たちにまで迷惑かけるなよ」
満田さんが、俺のユニフォームを強く引っ張った。
「でも、満田さんだって、やっちまぇって」
「はぁ、部活の先輩に口ごたえするのか。お前、自分が一番悪いのに、俺に責任なすりつけるなよ。責任取れよ、自白なんて許さねぇぞ。隠し通せないなら、お前たち死ねよ。みんなに対して責任取って、自殺しろ。そうすれば、それ以上追及されないぞ!!」
「そんなっ!!」
誰かが助けてくれる。そう思った。でも、誰もセンパイを止めようとしていない。全員が俺が悪いと思っているように、鋭い目でにらみつけきた。キャプテンだけが口を開いた。
「満田。そこまでにしておけよ。わかったか、上田。お前が弱気になったら、俺たちも終わりだ。軽率なこと言うなよ」
俺が責められるのか? だいたい、キャプテンだって止めなかった。むしろ、自分の裏アカウントで、噂を積極的に広めていたのに。俺だけが悪いのか。
「は、い」
思わず周囲の圧に負けてしまった。
「まずは、この写真の撮影者を探すことだ。まさかとは思うが、部員の誰かじゃないよな?」
キャプテンの追及に皆が首を振る。もし犯人がいても、正直に自白するわけがない。だいたい、皆怪しいよな。補欠のやつらが逆恨みして自爆しようとしているのかもしれないし、3年のしごきに恨みを持った1年の仕業かもしれない。
「先輩。早くこの写真を撮った犯人探しましょうよ。探し出してボコボコにして口止めしないと!! このままじゃ、俺たち全員破滅ですよ。1年とか怪しくないですか?」
俺は、思わず考えたことをすべて話してしまった。さっき、自殺しろとまで言われたのだから、部員たちの怒りの矛先を誰かに向けたかった。
相田が「はっ」と言って、ひとりの1年生に詰め寄る。
「そういえば、石上。おまえ、近藤さんの悪口言ってたよな!!」
1年のお調子者の石上に矛先が向かった。よし、よくやった。これで俺は安全圏。
石上は一瞬慌てて、「俺はそんなことしませんよ。なら、千代田だって、俺と一緒に悪口言ってたし!!」と他人に責任を擦り付け始める。
もう疑心暗鬼の集団になっていたサッカー部員たちは、お互いに罪を擦り付けるように暴言をぶつけていく。
俺たちの部活は完全に崩壊した。
※
―通報者視点(遠藤視点)―
俺はサッカー部の試合の後に、天田の家のポストに写真を入れてすぐにその場を後にする。
今ごろ、サッカー部は疑心暗鬼によって、
疑心暗鬼になれば、あとはわかりやすくて自分たちに都合がいい話を簡単に信じるだろう。俺も地獄に落ちるだろうな。近藤とサッカー部、エリを突き落すことができたら、本望だ。
「満田、お前は近藤の下僕だよな。なら、主人と一緒に仲良く地獄に落ちろよ」
俺は現像した複数の写真が入った封筒を持って、次の計画に移行した。
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