第49話 デートの始まり&密告者の謀略

―駅前(エイジ視点)―


 土曜日の朝。俺は、一条さんと待ち合わせのために、駅に来ていた。

 正直、眠れなかった。だって、学校のアイドルと映画デートなんて、ハードル高すぎる案件だし。


 結局、早起きしてしまって、そわそわしてたから、駅前のファミレスでモーニングを食べて、ドリンクバー飲みながら、早めに待ち合わせの場所近くに到着していた感じだ。


 まだ、予定まで20分くらいある。

 さすがに、ファミレスにいるのも、限界だったので、駅前をうろうろして時間を潰していた。


「あれ、先輩!! 早かったですね。まだ、待ち合わせまで20分もあるのに」

 俺は後ろからの声で呼び止められて振り返る。


 いつも制服姿しか見たことがなかった一条さんは、キャミソール型のくすみピンクのワンピースを着ていた。いっけん、あざとすぎる印象もあるはずなのに、彼女の雰囲気と調和して、上品にすら見える。白い小さなカバンも合わさって、彼女の優しい雰囲気が強調されていると思った。


「ああ、楽しみ過ぎて、早く来ちゃったからな」

 見とれすぎていたせいで、思わず本音が漏れる。


「いきなり、何言っているんですか。もうっ」

 彼女は苦笑いして、恥ずかしそうにはにかんだ。


「それと、すごく似合っていると思うよ。そのワンピース」

 こういう時は、女の子の服装に何かコメントしなくてはいけない。それくらいの知識は、持ち合わせていた。


「あ、ありがとうございます。やっぱり、先輩は女の子の扱いに慣れてますね」

 そう言って少しだけ複雑そうに笑う。まぁ、彼女に浮気されて振られたばかりの俺に少し気を使っているんだと思う。


「そんなことないぞ。思わず見とれていただけというか。そもそも、一条さんだってモテるんだから、男とデートするの慣れてたりするだろ?」


「実は、休日デートは初めてです。デート自体も、この前の放課後のカフェが初めてだったり……だから、このコーディネートも、お手伝いの前田さんの意見を聞いて……」

 

「えっ」

 思わず変な声をあげる。たしかに、誰とも付き合ったことはなさそうだったが、そこまで保守的というか奥手というのは想像していなかった。


「あんまり、深掘りしないでくださいね。少しだけ、恥ずかしいんですから。私だって一応高校生なんだし、興味がないわけはないわけで。先輩は、慣れているようだから、安心です。しっかり、エスコートしてくださいね」

 一条さんは、なんだかいつも以上に女の子って感じがした。


「がんばるよ」

 本当にみんなが彼女を見ていると錯覚する。

 特別な時間が本当に始まった。


「じゃあ、映画のチケット買いに行きますか!」

 彼女は意気揚々と、デートを始めようとする。


「ああ、それなら、昨日のうちに、ネットで席予約しておいたから、大丈夫だよ。土曜日だから混むかもしれないと思ってさ」

 そこらへんは昨日のうちに済ませておいた。


「えっ?」

 

「ん? どうした?」

 俺のデート相手は、一瞬、きょとんとして、すぐに感情が爆発したかのように、顔が真っ赤になる。


「エスコートしてくれとは言いましたけど……ここまでしっかり、エスコートしてくれるとは思ってなかったので。お金払いますねっ!!」

 少しだけ動揺しつつも、小動物のようにお財布を取りだそうとする後輩に苦笑いしながら、「いいよ、いいよ」と言って、俺は歩き出した。正直、これくらいしても罰は当たらないくらい一条さんに助けてもらっているからね。


 今日くらいは、全力で彼女を楽しませようと心に決めていた。

 楽しい土曜日が始まった。


 ※


―遠藤(密告者)視点―


 俺は校舎の空き教室から、サッカー部の練習試合を観戦していた。

 うちの学校は進学校だから、休みの日も教室を自習室として開放してくれている。

 まぁ、基本的に勉強は塾でやる人間が多いので、3年生以外の教室はほとんど人がいない。


 だから、監視するのにはうってつけだ。

 双眼鏡を持ち込んで、サッカー部の様子を確認する。やはり、近藤にはパスが行かなくなっている。昨日の写真がかなりダメージになっているようだな。


 近藤は孤立して、次々と格下相手に追加点がを献上していく。

 面白いくらいの惨敗だ。


 グラウンドの近くに、エリが応援に来ているのが見えた。かつての幼馴染の恋人は堕落した姿を見せていて、俺は嫌悪感すら覚えた。


 どうやら、俺のプランは順調らしい。ここでボロボロになった近藤は、ストレスのはけ口をエリに求めるだろう。


 そうなれば、今回も面白いものが見れる。

 そして、俺はそのおもしろいものを、あの女に流すんだ。そうすれば、近藤はさらにボロボロになる。


 正直に言えば、近藤がいじめの首謀者だという決定的な証拠を集めることは難しいだろう。サッカー部全体が絡んでいるはずだから、よっぽどのことがなければ、部員たちも自己保身のために、自白なんてしないはずだ。


 だから、今回の俺の作戦は当事者たちを疑心暗鬼に陥らせて、ゆさぶりをかけて、関係者がゆるやかに自滅するように誘導することだ。


 学校側にも情報を流した。これで、さらにしめつけが厳しくなる。その焦りから誰かが、決定的な自滅をするかもしれない。そうなればしめたものだ。


 疑心暗鬼を生じされば、絶対に裏切る人間が出てくるはずだ。

 近藤は、身内に裏切られて社会的に抹殺される。


「最高のショーを見せてくれよ。このクズどもがっ!!」

 あの場にいるほとんどが俺の復讐対象だ。

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