第48話 堕落した女

―サッカー部室(近藤視点)―


「なんだよ、なんでだよ。なんで、俺にパスが来ねぇんだ!!」

 惨敗した俺たちは意気消沈して、部室に戻る。俺は強く、ごみ箱を蹴り上げた。


「おい、満田っ!! なんで、俺にパスしねぇんだよ」

 同じ中盤の選手で、俺の下僕の一人である満田に八つ当たりする。


「だって、マンマークされてて、パスコースねぇし」


「このハゲ、バカ、のろま野郎。なら、お前が動きまくって、コース作ればいいだろ。仕事しろよ、雑魚がぁ」


「ひぃ、ごめん」

 まったく、何て使えないんだ。


「そんなこと言ったって、近藤先輩、今日の相手に研究されて、すぐにボールロストするじゃないですか。それに、ボール失っても、全然、カバーとかしないし」

 2年の誰かがポツリとそうつぶやいた。俺は頭に血が上って、ロッカーを叩く。


「誰だ、俺の悪口を言った奴は!!」

 2年は誰も俺と目すら合わせようとはしなかった。


「くそが。だいたい、フォワード陣が全然だめで、攻撃ができなかったんだろ。得点は、俺が獲得したPKだけだし。これじゃあ、勝てる試合も勝てなくなる。はぁ、これでスポーツ推薦もらうだと。渡辺なめてんじゃねぇぞ。お前は、しょせんそのレベルなんだ。俺に使われていればいいんだよ」

 結局、渡辺はなにもできなかった。あんな偉そうなこと言っていたのに。ああ、そこはおもしろかったよなぁ。


「なんだよ、何か言えよ。お前は、俺のコバンザメ。コバンザメならコバンザメらしく文句は言わずに、キングを輝かせろよ。それもできねぇのか、無能っ!!」

 ああ、すっきりした。いくらキャプテンでも、王様に逆らうことができないんだよ。それが当たり前だ。


「るせよ」

 渡辺は震えて、負け惜しみを言っている。


「はぁ?」


「うるせぇよ、このクズ野郎っ」

 激高した渡辺は、俺のみぞおちに拳をぶつけてくる。

 突然のことで、俺は何もできずに、渡辺の拳を受けてしまった。


「おぇっ」

 クリーンヒットしたパンチによって、食道が熱くなる。あまりの痛みに息すらできなくなってしまう。


 荒い息をしながら、にらみつける渡辺に恐怖すら覚えてしまう。


「お、おい。皆見たか。こいつ、俺に暴力振るったぞ。教師に言いつけてやるぞ。そうすれば、渡辺は終わりだ」

 だが、部員たちは、誰も俺に同意してくれなかった。あいつらも、渡辺のように、俺を冷たく見つめている。


「お、おい。皆見てたよな。こんなにたくさんの部員がいる中で、キャプテンがエースに暴力を振るったんだぞ!?」

 だが、誰も何も言わない。


 渡辺は、俺に対して冷たく笑いかけて、こう言った。


「はぁ、転んで頭でも打ったのか? お前は、ただ転んだだけだろ。みんなそうだよなぁ?」

 その言葉に部員たちはゆっくりとうなずく。


「そうですね」

「センパイは、イライラして転んだだけです」

「みんなそう言っているから、そうなんじゃないですか」


 悪意ある目で、こちらを見ていた。あざけわらっている後輩までいた。

 こいつらっ……


「そうか、お前たちは俺とやるつもりだな。なら、覚悟しろよ。絶対に後悔させてやる」

 俺は、こいつらの弱みを握っている。大丈夫だ。あとで、脅せば、あいつらはすぐに泣きついてくるはずだ。こうやって脅して、冷静になるまで待てばいい。


 イライラしながら、外に出る。くそ、美雪に連絡しようと思ったが、さすがに昨日の今日では接触しない方がいい。


 なら、1号でいいや。そういえば、今日は応援に来るっていってたよな。


「近藤君!!」

 やっぱりいたか。中学時代に、幼馴染から寝取った都合のいい女。

 池延いけのべエリ。

 俺と出会うまでは、黒髪ロングの清楚系って感じだったのに、俺の趣味に合わせて、茶髪に染めて、長い髪をバッサリ切っている。


 それで、幼馴染の男と破局させて、すぐに振ったんだ。こいつ中学三年の受験が大事な時期に2か月も不登校になって、マジでウケるよな。健気に、それでも俺と同じ高校に行きたいからって、奇跡的に勉強を頑張って今に至るわけ。まぁ、それまでに中学校までの交友関係全部失っていて、高校に入ってからは勉強もほとんどしないから学力も急降下。


 俺のためにすべてを差し出しているのに、結局復縁はできずに、ずるずる都合のいい関係になっているだけの残念な女だ。貴重な青春時代、全部俺に奪われてるんだよなぁ。


 俺と付き合うまでは優等生で、化粧っ気ゼロだったのに、いまじゃケバケバになって、見る影もない。


「練習試合残念だったねぇ。本当に他のメンバーはダメダメで使えないんだから。嫌になっちゃう」

 誰にでも優しかったはずの性格は、こういう風に歪ませることができた。正直、ここまで来ちゃえばいつ捨ててもいいけど、勲章みたいなものだからな。とりあえず、適当な関係を続けているってわけ。


「ああ、そうだよな。やっぱり、わかってくれるのは、エリだけだよ」

 こんなこと言えばこいつはすぐに、俺に尻尾を振ってくる。さぁ、楽しいストレス解消の時間と行きますかな。

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