第47話 ボロボロのサッカー部
「痛てぇなっ!! この野郎、何しやがるんだ!!」
俺は、ロッカーに身体を押し付けられたことに抗議する。いくらキャプテンの渡辺とはいえ、やっていいことと悪いことがある。
「うっせぇ、お前何やってるんだよ。この部活が大事な時期に!!」
「はぁ!?」
何を言っているかわからない。こいつら、ついに頭がおかしくなったのか。
「とぼけるな、この写真を見ろ」
そう言われて、差し出された写真には、俺と美雪がラブホテルに入っていく決定的な場面と、俺が警官に取り押さえられている決定的な場面が映し出されていた。
なんだよ、これ。誰が一体……
まさか、裏切り者がいるのか。一瞬で血の気が引いてしまう。
いや、どこまでバレている。まさか、教師までか。それとも……
親父がせっかくもみ消してくれるはずなのに、こんな補導寸前の写真を撮られた。まずい、まずい、まずい。
これじゃあ、俺の推薦が。栄光が閉ざされる。
「知らねぇよ、俺じゃねぇ!!」
バカみたいな言葉が口から出ていた。そんなわけないのに。
「どこからどう見てもお前だろ!! ふざけるのもいい加減にしろ!!」
胸倉をつかまれて、再びロッカーに押し付けられる。
屈辱、屈辱、屈辱。
俺はこの部活のキングだぞ。王様に逆らうの死刑だ!!
「うるせぇ」
「お前のせいで、俺たちの最後の大会はどうなる。俺はスポーツ推薦にかけてたんだ。今頃受験勉強しようとしても間に合わねぇよ。お前の不良行為のせいで、大会に出られなかったらどうするつもりだ。廃部にでもなったら、俺の人生、終わりなんだぞ」
「さっきから聞いてればうるせぇな。俺の才能のおかげで、ここまできたコバンザメがペチャクチャペチャクチャうっせぇんだよ」
俺は、思いっきり渡辺の身体を突き飛ばす。
「この野郎っ」
渡辺は俺に向けて殺意を込めた視線を送った。
「いいか、よく聞け。学校が俺を処罰できる分けねぇだろ。こんなのただの不順異性交遊だ。高校生にもなれば、やってるやつはやってる。少し停学になるくらいだ。部活になんか影響が出るわけねぇよ。それに、俺の親父は議員だぞ。上級国民だ。こんなスキャンダル、簡単にもみ消せる。お前たちとは、階級が違うんだよ!! お前たちの価値観で、選ばれた俺を語るなよ」
「はぁ!?」
「高校も俺を手放すわけにはいかねぇはずだ。高校の有名サッカー選手である俺を処分した。そんなことが外にばれたら、大スキャンダルで、学校の看板にも傷がつく。保守的な教師がそんなこと許容できるわけがねぇよな」
俺は早口でまくしたてた。
「たしかに!!」
後輩の誰かがそう言ってくれた。そうだ、そうに決まっている。俺は、その言葉に酔いしれる。
「いいか、俺は無敵なんだよ。お前たちみたいな雑魚とは、生きている成分が違う!!」
そうだ、俺は特別なんだ。みんな、親父が何とかしてくれる。俺のサッカーの才能がなんとかしてくれる。
「近藤っ!!」
それでも、こちらに詰め寄ろうとする渡辺に俺は言い放つ。
「じゃあ、聞くが、お前たちは、俺の下僕だよなァ。お前たちが、青野のいじめに加担したのは、消えない事実だぞ。それがバレたら、どうなるかなぁ。それに俺がいなくなったら、お前たちは大会で勝てるのかなぁ? ねぇ、ねぇ、勝てるのかなぁ? 俺がいなくなったら、推薦もらえるのかなぁ?」
「くそっ」
悔し紛れにそう言って、誤魔化そうとする。渡辺は、ごみ箱を思いっきり蹴り上げて、中身を散乱させる。
「分かればいいんだよ、わかれば。そうだよな、俺がいないと勝てないよな。だったら、大人しくてろよ、
俺は、部員をあざ笑って、ユニフォームに着替えを始める。
こいつらの生殺与奪の権利は全部俺が握っている。そうだよ、こいつらはしょせんドレイなんだ。俺はすべて許される。そうに決まっている。
「じゃあ、今後、お前のせいで、俺たちが不利になったら責任取れよな」
渡辺は情けなくそう言った。はいはい、奴隷が何か言ってますね。俺は笑いながら無視する。
大丈夫だ、まだ、きっと大丈夫だ。俺は、選ばれた人間なんだからな!
この溜まったストレスはすべて、この練習試合で解消する。
俺は震えながら、グラウンドに向かった。
※
―2時間後―
「なんだよ、これ」
スコアボードには4-1という数字が記録されていた。
普通なら、俺たちが4のはずなのに。
どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ。
格下相手に4失点して、後半ロスタイムを迎えているのはどうしてだ。
「こんな結果認められるかよっ!!」
俺たちの部活は、完全に空中分解を迎えた。これが破滅への序曲だという残酷な真実だけを残して……
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