第46話 守るべき生徒&サッカー部の内乱
―職員室(高柳視点)―
なんとか、激動の1週間が終わったな。まだ、戦いは始まったばかりだが、とりあえず、青野の補習はスタートできたし、親御さんともスムーズに連絡できる体制ができつつある。教職員同士の信頼関係もあって、ここまでは順調だと思う。
「順調か。まったく、そう思うだけでも、俺は
弱い心が出てしまった自分に、少し自己嫌悪してしまう。
少し疲れているんだろうな。皆に支えられながら、なんとかここまで来たから。
小テストの採点を終えて、少し休憩しようと、給湯室に向かう。
コーヒーでも飲んで、気分転換しよう。そう思い立って、印刷機の前を横切ると、ファックスの受信音を聞いた。
「ファックス? 今どき、珍しいな」
教育委員会の連絡とかでたまに使われるけど、さすがにメール全盛期すら超えている令和の時代だからな。
何が届くか注目すると、そこには写真のようなものが映し出されていた。
「なっ!?」
それは、俺が求めていた証拠が吐き出されていた。
白黒で見にくい写真だが、たしか、このファックスデータは学校のサーバーにもデータとして保管されているはず。それを見ればすぐにわかる。
給湯室のことなんて忘れて、すぐにサーバー内の画像データを探す。
画像ソフトを使って、色彩を編集。それだけで、実物よりもわかりやすくなる。
「近藤と天田が……」
いつ撮られた写真かわからない。だが、ふたりはたしかにラブホテルに入ろうとしていた。2枚目の写真は、2人が警官に確保されている光景だった。さらに、手書きのメモで、「高柳先生の下駄箱にカラー写真を入れています。ご確認ください」と書かれていた。
※
「たしかに、私とエイジは別れ話でトラブルになってしまって……そんな時に相談に乗ってくれた近藤先輩と一緒に歩いているところを見て、エイジは勘違いしたんです」
「俺たちが偶然一緒に歩いていたのを、あいつが見つけちゃって、浮気していたと思ったんでしょうね。」
※
あの二人の証言がやはり嘘だったということになるだろう。これで、さらに揺さぶりをかけることができるはずだ。この写真と土日にやろうと思っていた調査がうまくいけば、真実が明らかになるのは目前かもしれない。
だが、ひとつだけ不安なことがあった。
この匿名の通報者のことだ。おそらく、教職員ではなく、この学校の生徒だろう。父兄などの可能性もあるが、わざわざこんな回りくどい方法をとる必要もないはず。
匿名の生徒は、この写真をどうやって撮ったんだ。
相当危ない橋を渡っているはずだ。
近藤たちに相当な恨みがあるか、青野に恩義があるのか。たぶん、どちらかだと思うが、それでも自分を犠牲にしても構わないと思っているような強い覚悟をこの写真からは感じる。
まだ、10代の子供が……
どんな過酷な運命を乗り越えたら、そんな覚悟ができるのか。
そもそも、まだ守られるべき未成年がだぞ。
この仕事に就いてから、大人として子供を守ることができないかった場面はいくらでも見てきた。ろくでもない親の借金などで、学校に通えなくなって生徒。親からの愛情を受けずに育ったことで、非行に走る生徒。そして、今回の青野のように悪意あるいじめを受けて、将来をゆがめられそうになっている生徒。
俺はこの生徒を見つけ出して、手を差し伸べたい。傲慢かもしれないが、それが教師という職業に就いた自分の責任だと思った。
何かが起きる前に、今度は手遅れにならないように。
すべてを解決する。
俺は、校長と教頭に連絡し、情報を共有した。
※
―翌日(サッカー部室)―
さぁ、格下いたぶってストレス解消と行きますか。まだ、眠いけどな。
意気揚々と部室の扉を開くとすでにほとんどのメンバーが待っていた。
いつもとは違う冷たい目線が、こちらに突き刺さる。
「な、なんだよ。お前ら」
エースであるはずの俺をこんな目で迎えるはずがない。何かがおかしい。
「近藤、おまえっ!!」
キャプテンを務めている渡辺が、俺の胸倉をつかんで、そのままロッカーに突進していった。
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