第36話 補導

―近藤視点―


「ふぅ」

 目が覚めると、もうすぐ正午になりかけていた。

 学校はサボってしまったな。まぁ、構わない。もうほとんど大学の推薦はもらったようなものだ。出席日数も1日サボるくらいでは何も変わらない。


 そろそろ、この女も捨てる頃合いだな。まぁ、本当に都合がいい女だから、しばらくキープしてやってもいいけど。


 中学の時に捨てた都合の良い女1号みたいに、捨てて不登校になっても、執念で高校まで追いかけてきた奴もいるけどな。ほとんどストーカーだったが、適当に相手して少しだけ希望を持たせてやれば、まぁ呼べばいつでも来る女になったから一応、キープしている。


 王様は、いろんな女をはべらすものだよな。


 そう言えば、あの青野のやつ、どうしてか、一条愛に気に入られたみたいだな。ムカつく。あいつは、王の前で犠牲になるドレイのようなものなのにな。もっと後輩をたきつけて、早く不登校にしてやろう。高柳とかが何か言ってくるかもしれないけど、どうせ言い負かして逃げることができるだろう。


 美雪を捨てたら、次の標的は誰にしようかな。一条にも捨てられたら、青野はもう立ち直れないだろう。それも悪くないシナリオだ。あの学園のアイドルも俺のモノになったら楽しいだろうな。


「センパイ、スキです。ずっと一緒ですよ」

 隣で美雪が幸せそうな顔で寝言を言っていた。本当にこいつはちょろいな。

 俺が頭をなでてやると、さらに幸せな顔になっていた。


 こいつは清楚なイメージで男にモテるらしい。なら、そういう男たちのイメージも崩すのも悪くないな。ギャルメイクとかさせて、俺だけの女にしてしまうとかな。そうすれば、こいつに片思いしていた他の男どもの淡い恋心も粉々にできる。こいつは、嫌がってもここまで依存させてしまえば、別れ話をちらつかせて、どんなことでも強要できるはず。


 そして、誰も寄り付かなくなった後で捨てる。これが最高なんだよ。

 黒い炎を心に灯しながら、俺は女を抱きしめた。


 ※


「学校サボっちゃいましたね」

 昼間を過ぎて、俺たちはホテルから出る。やっぱり優等生だ。少しだけ罪悪感を感じているみたいだ。


「大丈夫だったのか。外泊して」


「大丈夫です。親には女友達の家でお泊り会って嘘ついて来ましたからね」

 少しだけ目が泳ぐ美雪に違和感を感じた。


「まぁいいや。そろそろ学校も終わるから、家に帰ろうぜ」

 さすがに、一日サボったから、昨日のイライラもかなり落ち着いた。

 やっぱり、女遊びは最高のストレス解消法だよな。


 敷地内を出ると、急に目の前に車が止まった。

 パトカーだった。


「えっ」

 美雪が思わず、悲鳴を上げた。

 なんだ、これは。俺は何もわからずに絶句する。

 パトカーの窓がゆっくり開く。若い警官が冷たい笑顔であいさつする。口元は笑っているのに、目は笑っていなかった。あきらかに、こちらを怪しんでいるのがわかる。


「あっ、キミたちごめんね。実は通報があって、高校生が入ってはいけないホテルに泊まっているって。キミたち風営法って知ってる? そこのホテルって18歳以下が使ってはいけない場所なんだ。大丈夫だとは思うけど、念のため身分証明書とか見せてもらってもいいかな?」

 俺たちは恐怖で動けなくなってしまう。あきらかに、美雪は動揺し、震えていた。一瞬、横顔を見たら、顔面蒼白そうはくになっている。


「どうしよう。私達、逮捕されちゃうんですか」

 小声ですがるように泣きつく美雪の言葉が余計に俺を動揺させる。

 通報? いったい誰が!! 俺たちは制服でもない。私服だ。普通に考えたら、大学生のようにも見えるはず。つまり、一般人の通報ではないのか。誰か知り合いが……


 俺を裏切った?

 どうする。このままでは、補導される。そうなってしまえば、俺の評判はがた落ちで、絶対にそんなことは許されない。


 なら、やるべきことはひとつだ。

 ここから、逃げるしかない。


 だが、美雪は足手まといだ。どうする、置いていくか。

 女を連れて逃げても、警察に追いつかれる未来しかない。もうどうしようもないのか。


「ねぇ、キミたちどうしたの? 固まっちゃって? もしかして、本当に高校生?」

 2人の警官は車を降りてこちらに向かってくる。もうここしか、ない。


「逃げるぞ、美雪っ!!」

 俺は、一目散に駅に向かって走り出す。だが、美雪は逃げ遅れた。すぐに警察官が身柄を確保して、俺に向かって走り出していた。


 くそ、どうしてこうなった。俺は、俺は…… 

 急に走ったせいか、足がもつれて転んでしまう。痛てぇ。


 追いかけてきた若い警官にすぐに取り押さえられてしまう。


「くそ、離せ、離せっ!!」

 抵抗むなしく、俺は地面に転がりながら絶望の時間を味わう羽目になった。


 ※


―通報者視点―


 僕はホテル近くのハンバーガーショップで一部始終を見ていた。

 あの近藤が芋虫みたいに地面に転がっている姿を見て、少しだけ気が晴れた。学校をさぼって、ずっとここで待っていた甲斐があった。ずいぶん、愉快な光景だ。


 これであいつらは補導される。でも、それじゃあ足りないんだ。

 補導された場合、基本的に警察から学校に連絡が行く可能性は高くない。だいたい、親が連絡がつかない場合だけなど特別な場合に連絡が行くそうだ。ネットにそう書いてあった。


 だから、ここで警察に通報したレベルでは、僕の復讐は終わらないんだよ。学校に伝わらないんじゃ意味がない。


 そこで大事になってくるのが事実を収めた写真だ。昨日、二人がホテルに入っていく写真が本当の意味で切り札になる。


 そして、今、目の前で起きているショッキングな光景もね。僕は冷酷に、近藤が警官に抵抗しながら、みっともなく転がっている状況をスマホのカメラで写真に収める。


「さあ、王手だ。ここからどう言い逃れようとするのか、見物だよ。サッカー部のキング様?」


 

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