第45話 二度と会わない

「オマエらの事情は分かった」


 レイさんと合流した後、僕らは目立ちにくい広場の隅の方へと移動していた。人気が無かったとはいえ結構派手に戦っていたし、今は誰かに見られず話したいと青髪の子が言ったからだ。


 ちなみに仮面の人は青髪の子が持っていた縄で縛っている。この後、とりあえず騎士団の人達に任せるつもりだ。僕らが襲われる側だったのはあの場に居た人なら分かるし、なんならもう通報されてるかもしれない。


 ――というわけで、渋るレイさんを何とか宥めながら僕は青髪の子に僕らの事情を説明した。話を聞いた青髪の子は逃げる際に拾って被っていた帽子を脱いで、がしがしと頭を掻きながらため息を吐く。


「オマエらは丁度ここで一緒に活動する仲間を求めていた。求めていたのは戦闘に長けたヤツ、というより護りに長けたヤツ。そんでオレの戦いを見たオマエは、オレがそれに当てはまるかもしれないと考えて、同時に丁度良いと思った」


「うん」


 この子は見た感じ、凄く戦い慣れている。あの鎖の魔法もそうだけど、身のこなしとか体力が普通じゃない。僕が見てきた中で一番近いのは……アイスさんかな。戦うことが日常にあったって感じの、そんな雰囲気だ。


 しかも護りの技術もある、と思う。あんな何本ものうにょうにょから僕が居るのに結構な時間を耐えていた。


 色々考えて、僕は丁度良いと思ったんだ。


「話を聞く限り、他にもなーんか隠し事がありそうだが……」


「……」


「……聞かねえよ。藪蛇ってヤツだろ。大体想像は付くけど」


 青髪の子に向けていた視線をスッと細めるレイさん。レイさんの秘密のことは話していない。けど何となくそういう事情があるっていうのは分かってしまったみたいだ。


「まあ、理屈は分かるよ。ここじゃそういう勧誘も日常茶飯事なんだろうし、チャンスと見たら声かけるもんなんだろう。それでも……オマエさ、話聞いてたか?」

 

「そうだぞ」


 今度はその視線が僕に向く。いや、青髪の子よりも全然柔らかいんだけどさ。


「コイツに関わること自体がリスクだと、コイツ自身が言っていたんだぞ。お前の勧誘それはむしろそのリスクに真正面から突っ込んでいる」


「……それは、そうです。でも、こうやって襲われるくらいなら何とかなるんじゃって思って。レイさんなら……あと僕も回復なら出来ますし」


「今回こうして何とかなったのは偶然や幸運があったからだ。それこそ、私達がいまやっている勧誘の目的を思い出してくれ。お前を護る為の人員を引き入れても、その代わりに敵を増やしては本末転倒じゃないか」


「……」


「もちろん、仮にそうなれば私は全力でお前を護る。だが私の手ではどうしても。だから――」


「もう良いって」


 それまであぐらをかいて座っていた青髪の子が立ち上がり、パンと手を叩く。


「アンタらが喧嘩してまでオレに気を遣う必要なんてねえ。オレはさっきも言った通り、さっさとここを出て行く」


「いや、喧嘩ってわけじゃ……」


「じゃあオレから答えを出してやる。――誘いは断る」


 青髪の子は僕を真正面から見つめて、意思の籠った声でそう言った。


「さっきそっちの姉さんが言ってたろ。助けを求めていない者を助ける必要なんて無いって。なら誘いを断るオレをどうこうすることは、オマエにもできねえ。オレの意思を決めるのはオレだ」


「……そう、だね」


「だから、この話はここで終わりだ。そんで今度こそお別れだ」


「あっ」


 もう話す事はないと、そう態度で、背中で示しながら青髪の子は歩き出す。


「じゃあな、もう二度と会わねえだろう。……オレを誘ってくれて、ありがとよ」

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