第46話 またね
「二度と会わねえつったのに……なんでオマエはここにいんだよ!!」
探索都市の出入り口辺り。一度別れた筈の僕が待ち伏せてそこに立っていたのを見て、青髪の子は帽子をスパーンと地面に投げた。
「いやあ、言いたいことがまだあってさ」
「ほんっとに話を聞かねえヤツだなあ!つーかあの仮面はどうしたんだよ!」
「ここに来る前に騎士団の人に預けたよ。もう一人も捕まってた」
「はん……それは良かったな」
騎士団にあの仮面の人を預けて、ここで待ち伏せる。青髪の子がここに来る前にそれをやれたのはレイさんのお陰だ。そのレイさん今、少し離れた場所で僕らを見ている。
あと、もう一人を捕まえた人はピルカさんだった。騎士団越しに伝言も受け取ってる。本当に助かった。今度お礼をしたり、色々説明しないと。
「で、言いたいことって何だよ。それくらいは聞いてやるから、さっさとしろ」
うんざりとしたような感じだった。でもこれは言わないとって、無性に思った。
それはこの子を勧誘しようとした
「さっきは探索の為に勧誘したって言ってたけどさ、僕は他のことも考えてたんだ」
「なんだよ」
「今日、あんな出来事にあって疲れたし怖かったけど……ちょっと楽しかったんだ」
「……はあ?」
「で、それがなんでかなって考えたら……多分、君がいたからだと思う」
「――」
わざわざ追いかけてきてまで言うのがそんなことかよ、みたいな感じなんだろうか。青髪の子はぽかんと口を開けていた。
「ほら、僕達って同年代ぐらいでしょ?
「お、おまっ、そんな理由で?」
「うん。あ、あとさ、君が良い人そうだったっていうのもあるかな」
あの仮面の人を戦ってる時に、この子は言っていた。
『礼を言わなきゃなんねえのは、オレだっ!』
僕を護りながら、僕を置いて行くなんて選択肢は無い、そんな戦いをしながら。
『そんなヤツをオレのせいで死なせたら、もう二度と胸を張って生きられない。――だから、オマエはオレが守る』
僕はああ言ってくれたこの子に対して、物凄く単純に好感を抱いてる……のだと思う。要するに。
「仲間って言うか、友達になれそうだなって」
「……そうかよ」
「うん」
「話はそれだけか?」
「うん」
「なら、本当の本当にお別れだ」
「分かってるよ」
分かってる。ただこれは、言っておかないとダメだと思ったから言いに来た。もう会えないなら、なおさら。
帽子を深く被り直して、もう一度青髪の子は僕に背中を向ける。そしてゆっくりと出入口へ歩いて行く。
――途中で、足が止まった。
「なあ」
「なに?」
「もし、もしだぞ。オレがまたここに戻ってきて、そん時はオレからオマエの仲間になりたいって言ったらさ――」
「えっ!?」
「もしだっつってんだろ!……オマエは、オレを受け入れてくれるか」
「もちろん。なんか、これからも仲間集めは苦労しそうだから。いつでも歓迎だよ。また仮面の人が来たりするのは困るけど、仲間になったからには僕も出来る限り君の事を手伝うよ」
「は……そうか」
背中が振り向く。僕と同じ、まだ子供って言えるくらいの顔立ち。良く目立つ青髪は砂埃で汚れていて、それが僕達を分けているような。
僕達は、少しの距離を間に向かい合う。
「オレはシアン」
「……あ」
名前だ。そういえば最後まで聞いてなかった。いや、言う気が無かったのかも。
「僕はサンゴ。あの人はレイさん。探索隊名は【サンゴとレイ】」
「何だその名前。つか、お互いの名前も知らねえのに勧誘だの仲間だのやってたのかよ」
「確かに」
会ってから初めて見せた、こぼれたような笑顔。僕も思わず頬が緩む。
ああ、やっぱり――シアンと一緒に居るのは、楽しい気がする。
「――じゃあな」
それでも今度こそ、シアンは都市の外に出て行く。だから僕は思いっきり手を振る事にした。
「またね!待ってるからさ!気が向いたら――僕と冒険しよう!」
☆
人の気配に溢れた雰囲気から外に出て、オレは何というか、自分が元に戻ったような感覚を味わっていた。
騒々しい。色々な息遣い。不規則な足音。それが無い
『うん。あ、あとさ、君が良い人そうだったっていうのもあるかな』
そんなワケがない、ないんだよ。オレはあの仮面共と同族だ。オマエみたいなヤツに良い人なんて呼ばれて良い筈が無いんだ。
何も考えないままただ生きて、目の前に居たヤツの真似をして、何も考えないまま手を汚してきた。オレがここに居るのはただの偶然だ。オレを縛っていた鎖が偶然解けた、ただそれだけなんだよ。
――それでもオレは、胸を張って生きたかった。もう過去はどうしようもないんだとしても、せめてこの先くらいは自分で自分を誇れる生き方をしたかった。
……オマエの側に居たら、そんな生き方が出来るかな?
「……サンゴ」
名前を呟いてみる。ただ自他を区別する為の言葉が、妙に意味を持ったような気がした。
「サンゴ」
最後にそう呟いて――オレは決めた。
ケジメを付ける。胸を張って……アイツの近くで生きる為に。憂いを断つ。大本をぶっ壊してやる。
そしたらまたここに来て、アイツに全部話す。そんでそれでも、アイツがオレを仲間にしてくれるって……友達になってくれるって言うなら。
「――アルゲントゥム教団」
俺は強く、決意を込めて呟く。これからオレが戦っていく相手を――オレを育てた相手を。
消えない炎を。道しるべになる光を。心に宿して。
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