第34話 第一迷宮 二
第一迷宮は全部で十階層。一階層ごとに下へ進む階段と、その横には管理所へ戻れるあの床がある。
だから迷宮を探索する人達はまず階段を探して、これ以上は進めないと思ったら床で戻る。それが迷宮探索の基本。
そしてもう一つ、大事なのが……。
「あっ、あれ!」
第一迷宮三階層。レイさんの無慈悲な血の玉のお陰で出会って即死んでいく迷獣がちょっと可哀想になってきた辺りで、僕達はそれを見つけた。
道の行き止まり、そこに置かれた木箱――宝箱だ。
「これみよがしに置いてあるな」
「迷宮といえばって感じですけど、実際に見てみるとやっぱり不自然ですね」
良くある宝箱って誰が置いてるの?そんな疑問がそのまま浮かんでくる光景だ。でもまあ、そんなことより中身の方が気になる。
「開けても大丈夫ですかね?」
「心配なら私が開けるが」
「いや、講習でも第一迷宮の宝箱に罠が仕掛けてあったことはないって言ってましたし……僕が行かせてもらいます!」
やっぱり開けたいよね!まあ、大体中に何が入ってるのかってのも講習で聞かされてるんだけどさ……。
箱に両手を当てて、結構重量のあるフタをゆっくりと開ける。中にあったのは。
「おお」
「魔石だな」
中にあったのは丸っこくて黒い、手のひらに収まるぐらいの大きさの石だった。
魔石。迷宮探索の基本的な収入源らしく、これ一個でかなりのお金が貰える。変動したりするらしいけど、僕達の場合はライオット大森林に二回行った分くらいかな。そう考えると凄い。
「これ一個で、って考えると迷宮にあれだけ人が集まるのも納得だなあ」
「確実に拾えるモノでもないようだし、真っ当に迷宮に挑む者にとってはそれくらいの価値があって貰わなければ困るだろうな」
宝箱は絶対にあるってわけでもないらしい。一応下に行けば行くほど出やすくなってる、みたいに言われてるらしいけど、ほとんどの人は行けて四階までって言われたのも考えると、その四階までに宝箱が出るかどうかってかなり運に左右される。
だからそういう人は四階まで行って管理所まで戻ってまた行って、っていうのを繰り返して探索するらしい。凄い大変そうだ。
「そろそろ件の四階ですね」
四階で止まる、っていうのは五階が原因だ。五階にはこっちを迷わせるような道は無くて、大きな広間と物凄く強い迷獣が居る。皆はボスフロアと呼んでるらしい。
「魔石も一個取れたし、一回帰ります?」
「心配なのであればそれでも良いと思うが……正直、これまでの相手を考えればそこまでの脅威とは思えないぞ」
「……じゃあ五階にも挑戦してみるってことで。とはいえ、一度降りても四階に戻れるって話なので、危なそうだったらすぐ戻りましょう」
「分かった。お前の安全を第一に考えるのは私も賛成だ」
多分大丈夫だと思うけど、ほとんどの人がそこで引き返すっていう階なんだ。一応は緊張感を持って進んで行こう。
☆
うん、全然大丈夫だったね。安定の血の玉一発KOでした。講習で聞いてた通り、豚の頭をした一つ目の人型迷獣だったんだけど、僕らを見て雄たけびを上げてる最中に頭を撃ち抜かれて終わっちゃった。
「流石ですね」
「用心棒としてこのくらいは出来てみせないとな」
こんなこと出来るのレイさんぐらいだと思うんですけどね。
「あ、宝箱」
迷獣が居たとこら辺にいつの間にか宝箱が出現していた。ボスを倒すと絶対に宝箱が出るっていうのは本当っぽい。
「魔石だ。もうこの時点で結構稼げてますよね」
「金が必要ならここで稼ぐのが手っ取り早いんじゃないか?私一人でひたすら周回すれば一日でそれなりの量になるだろう」
「……凄く良い案だとは思うんですけど、流石に気が引けますね」
もうそれは探索じゃなく作業だし、レイさん一人がやたら大変だし、ひたすら入って制覇してを繰り返すレイさんは絶対悪目立ちする。
「まあ必要になれば遠慮なく言ってくれれば良い。この程度、苦にもならないさ」
相変わらず優しいレイさん。でも結構な理由がないとそんな事頼まないだろうな。普通にやってるだけでも十分稼げてるし、別に大金持ちになりたいワケでもないし。
――そんなこんなで、僕達は前に進み続けた。六階以降は出て来る迷獣の数が増えて、しかも道に厄介な罠が仕掛けられてる場合がある。
罠の種類は確認されてるだけで三つ。特定の床を踏むと前か後ろから矢が飛んでくるヤツ。同じく床を踏むと床が抜けて強制的に一階層下に落とされるヤツ。特定の道の先を進むと迷獣が沢山居る広間に出てしまい後戻り出来ないヤツ。
とはいえ、それぞれの罠はちゃんと目を凝らせば見分けられるし、これは数少ない僕の役目になった。迷獣はレイさんが完璧に対処してくれるし、その分僕は集中出来るからそこまで大変じゃない。
普通の探索隊はこの二つに対処しながら進むのが難しいんだろうなあとしみじみ思う。五階は突破出来ても六階以降は行かないって探索隊が多いらしいのも頷ける。
六階、七階、八階、九階。途中でもう一つ宝箱(魔石)を見つけながらも、僕達は全然危なげなく十階に続く階段まで来てしまった。
「ここまで来たら……行ってみましょうか」
「任せろ。どんな相手だろうと蹴散らしてやる」
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