第33話 第一迷宮
横幅はかなり広い。馬車ぐらいなら余裕で通れそうな感じ。壁や地面は茶色い石のブロックが重なって出来ていて、かなり雰囲気が出てる。どこかに光源があるのか、ちょっと薄暗いだけで周りの様子は全然分かる。
そして、目の前にはそんな道が真っすぐと伸びている。
「ここが迷宮……」
第一迷宮のスタート地点。そこに僕達は立っていた。
「ホントに一瞬で景色が変わった……!」
あの行列が出来ていた扉の先にあったのは光る床だった。そして講習で教わった通りに同行者であるレイさんと手を繋ぎつつ、そこに足を踏み入れると次の瞬間にはこの場所に居た。
「あっ、後ろにあの床ありますね!帰ろうと思ったらここから帰れるらしいですけど、流石に来てすぐに変えるのは……レイさん?」
はしゃいでる僕に対して、レイさんは神妙な様子で押し黙っていた。握っていた手を離してレイさんの顔の前で振ってみる。
「……ん、すまない。ここについて少し考えていた」
「ここがどこか知ってるんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。この空間の仕組み……構造というべきか。講習で言っていただろう。迷宮への挑戦者はそれぞれが別々に送られると」
「中で他の人達に会うことはないって言ってましたね。床を踏む前に手を繋ぐ必要があるのも、同じ探索隊のメンバーが別々に送られるのを防ぐ為、でしたよね」
「ああ。そしてその説明が本当なのであれば、この場所は複数存在するということになる」
「……言われてみればそうですね」
一瞬で別の場所に移動する、って話に気を惹かれてたけど、確かにそうだ。中で同じように迷宮に入った人達と会わないってことは、入った人達の分だけこの場所があるってことになる。
「空間の多層化、とでも言うべきか。講習の段階で思っていたがここは……」
「ここは?」
「――謎が多い場所だな。私もこんな経験は初めてだ」
色々知ってたりするレイさんでもここは不思議な場所らしい。そう言われると、講習で落ちていたテンションが戻ってくるような感じがする。僕は今、レイさんでも見当のつかない場所に居るんだ、って。
「じゃあ、とりあえず出発してみますか!」
「私が先頭を歩く。出来るだけ離れないでくれ」
「はい!」
いつも通りのスタイルで進みだす僕達。しばらくは一本道が続いているようで、ざっざっと石の擦れる音が響く。そのままそこそこ進んだところで。
「止まれ」
レイさんの言葉通りに足を止める。どうやら、来たらしい。
僕達のとは違う足音。道の奥からゆっくりと姿を現したのは、狼のような四足歩行の動物だった。ただし、その目は一つしかない。
「これが迷獣か」
迷宮の中を徘徊しているという謎の化け物、迷獣。僕達は迷宮の最初の洗礼を受けることになった。
☆
「まあ、余裕ですよね」
目の前では早々にレイさんに撃ち抜かれて何も出来なかった迷獣が倒れていた。そして少しすると、煙が散っていく時のように迷獣の身体が消えていく。
「これも講習で言ってた通りですね。どうなってるんだろ」
「さあな。だが、危険度は森に居たような魔獣と大差無い。この程度なら労せず進めるだろう」
どんな相手だろうとあの血の玉を飛ばせば大体倒せるんだもんなあ。今更だけどレイさんと一緒に居るとこれが当たり前に思ってしまいそうになる。
さっきのブライトさんも言ってた通り、普通なら万全の準備をして挑むような場所なんだし、レイさんが特別なんだっていうのは忘れないようにしないと。
――その後も進んでいると、遂に一本道が終わる時が来た。左右に分かれていてここからじゃどっちの道の先も見えない。
「迷宮の始まり、って感じですね。どちらから行きましょう」
「右からで良いだろう。どちらにせよ私達が迷うことはない」
そう言うとレイさんは両方の壁に向けて血の玉をぶつけた。レイさんが前に進むと同時に玉も前に。そうすることで壁に赤い線が引かれていく。
「これを続けて行けばいずれは全体図が把握出来る。私の頭の中だけの話だし、かなり大変なんだがな」
「……十分すぎると思いますよ」
普通、迷宮に挑む時は中の道を確認しながら進むための道具とか何かしらの方法を用意して挑むらしい。なぜなら迷宮は入る度に構造が変わるから。
道が毎回変わるならその都度記録していかないといけないってのは分かる。迷宮探索セットの中にもその為の道具があったみたいだし。
それを考えると……レイさんのこれって凄くないか?迷宮に入る前から何とか出来るって言ってたけど、本当に何とか出来ちゃったよ。なんかこう、ズルくない?
……ま、いっか!
「どんどん進んでいきましょう!とりあえずは――宝箱を探すのが目的ってことで!」
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