第31話 講習と交流

「なんか思ってたのと違う……」


 管理所の職員さんによる講習。その休憩時間中に僕は机に突っ伏していた。講習と言われて案内された部屋には、僕達と同じように案内されてきたのだろう探索者と横並びにされた机と椅子があった。で、そこに座って話を聞いてたワケなんだけど。


 なんか、凄い説明がハッキリしてるというかさ。迷宮の中はこうなってて、こうやって進むのが普通で、こういう敵が出てきてっていう内容でさ。


 ……迷宮って何が起こるか分からないモノじゃないの?なんか楽しみをネタバレされてるような感じ。


 いや、探索者をなるべく死なせない為っていうのがメインの講習らしいから、ちゃんと聞いとかないといけないけどね。


「レイさん、どう思います?」


「入ってみないことには何とも言えないな。だが内部がどうなっていようとお前は私が守るさ」


 左隣に座るレイさんは相変わらず頼もしい。実際レイさんが居たら大丈夫だと思うんだよね。まあでも、説明を聞いてる限りは僕も少しは役に立てそうなんだけど。


「うーん、でも何というか、ここまで中のことがハッキリしてるなんて思わなかったなあ」


「――俺達にとって、中の情報はあればあるほど嬉しいんじゃないか?」


 そうぼやいていると、右隣に座っている人に話しかけられた。席が隣り合った時に軽く会釈してくれた茶髪のおじさんだ。


「ん、えっと、普通はそうなんですけど……」


「あんまりかしこまらないでくれ。ここじゃ同じ探索者同士、歳を食ってれば偉いとは思わないからな」


「誰に対しても大体こんな感じです」


「そうか、礼儀正しいんだな。俺はモンド。最近探索都市にやってきたんだ、よろしくな」


 そう言ってにっこり笑うおじさんことモンドさん。なんか褒められた……この人良い人っぽい。


「サンゴです。僕もつい最近です」


「まあ、ここに居るってことはそういうことだよな。だからなおさら気になったんだ」


 ……確かに、駆け出し探索者なのに迷宮の情報が要らないみたいなこと言ってるヤツ、普通に変なヤツだな。


 僕以外の人達は凄い真剣に話を聞いてるようだし、僕が浮いて見えるのは当たり前か。いや、僕も話自体はちゃんと聞いてるけど。


 ――そんなワケでモンドさんにぼやきの理由を話すと、モンドさんはなんだか感心したような顔になった。


「冒険がしたい、か……。そうだよな、何があるか分からないから楽しいんだよな。なら今までの話を聞く限りはちょっと残念ってのも分かる」


「……モンドさんは何で探索都市に来たんですか?」


「俺は夢を叶える為……と言っちゃ聞こえは良いが、結局は金を稼ぐ為さ。君みたいに純粋な理由じゃないな」


「いやいや、大事ですよお金は」


 今は大丈夫だけど、レイさんに会うまでの僕は持ち金的にヤバかったし。それに余裕が出来たとはいえ、これからもここでの暮らしの為に稼がなきゃいけないし。探索者をやってる人は大体お金目的だろうし。


「はは、そうだな。……店をやりたいんだ。静かにゆったりとメシを食えるような。その為に、この歳になって田舎から飛び出して来た」


 そう恥ずかしそうにモンドさんは言うけど、物凄く良い夢だ。田舎から出て来たっていうのも共感できる。


「お店かあ、完成したら行ってみたいです」


「いつになるかは分からないし、途中で心が折れるかもしれないけどな。でもそうなったらぜひ来てくれ」


「はい!……ところで、もう探索隊には入ってるんですか?」


 モンドさんが駆け出し探索者として聞いて気になった点だ。もしかしたら探索管理所に寄らずにここに来ちゃったのかもしれない。流石に迷宮に挑むとなったら先に入る探索隊を探した方が良いと思うし。


「それはまだだが、この後ここに居るヤツらを誘って立ち上げるつもりだ。この講習を使って探索隊を立ち上げるヤツは多いらしいし、俺と同じ算段のヤツも結構居そうだからな」


「あ、なるほど」


 そういう仲間の集め方があったのか。知らないものかと思って先輩風を吹かそうとしちゃったよ、恥ずかしい。


「だから、君達の探索隊に入れさせて貰おうとは思ってないから安心してくれ。そちらの女性も俺を警戒してるようだからな」


「えっ……ああ」


 前を向きつつも僕らの話を聞いてるだろうレイさんの方を見る。警戒……してるのかな?というか誘ってるように聞こえてたのか。


 僕としてはモンドさんが入ってくれるなら大歓迎なんだけど、レイさんの事情的になあ。


「そろそろ、話の続きみたいだな」


 部屋を出ていた職員の人が戻ってきた。休憩は終わりってことなんだろう。


「目的も異なるし、君達は君達、俺は俺で頑張ろう」


 話が始まる前、モンドさんは力強く言った。


「……今のところ、後でお互いに確認しないか?歳を取ると物覚えが怪しくてなあ……」


 そして話の最中、それが嘘のように申し訳なさそうに小声でそう言ってきた。了承しながらしみじみ思う。……夢、叶えてほしいな。

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