第30話 迷宮
「――ふう」
ひんやりと冷えた水が喉を通る。続けて桶の中に溜まった水で顔を洗う。濡れたところにすーっとした風が当たって目が覚めていく……朝の始まりだ。
「ほら」
横に居るレイさんから差し出された布で顔を拭く。スッキリした。
「絶好の探索日和ですね」
「そうだな」
空を見た感じ大きな雲は無いし、今日の天気は安定しそう。当たり前だけど屋外を探索する時の天気は重要だ。
雨や風の対策をしながらの探索は出来ればしたくない。まあ、レイさんならそこらへんもなんか対応しそうな気がするけど……レイさんの負担が増えるのは避けるべきだろう。ここ最近で破竹のお荷物ぶりを見せちゃってるから余計にそう思う。
「今日も森に行くのか」
「そこなんですよね」
これまで通りライオット大森林へ、というのも良いけど、流石にちょっと飽きてきたというか。もちろんあそこの全部を見たつもりなんて無いし、実際僕達が今まで行った場所は森の入口の域を出ていないんだろう。
でも、ね?ここら辺で別のところも行ってみたいなあって。昨日寝る前にふと思った。だから今日は別の場所に行ってみようと思う。
「レイさん、今日は迷宮に行って見ましょう」
☆
探索都市に来てまず探索しに行く場所といえば、まず名前が挙がるのがライオット大森林。その次が迷宮と呼ばれる場所らしい。
迷宮、迷宮だよ。冒険譚じゃお馴染みのワード。おどろおどろしい怪物が居たり、罠があったり宝箱があったり、奥には迷宮の主が待ち構えてたり。
まだ具体的にどういう場所なのかは知らないけど、この話を聞いてからどこかのタイミングで行ってみたいってうずうずしてたんだよね。
そしてなんとこの迷宮、入口が都市の中にあるらしい。そりゃあ皆行くわけだ。
という訳で、合間に食堂での腹ごしらえをこなしつつ、お昼前には僕達は迷宮の入口がある迷宮管理所へと到着していた。
建物の感じは探索管理所とあんまり変わらない。ただ人の数はあそこと同じかそれ以上に多い。凄い賑わってる。
「まだお昼前なのに凄いなあ」
「ふむ、探索者にとって迷宮とはそこまで魅力的に映るのか」
「少なくとも僕は昨日からウキウキしてます。レイさんはしないんですか?というか、そういう場所にもう言った事があったり?」
「ハッキリと迷宮と呼ばれているような場所だったかは知らないが……洞窟や地下なら何度か経験はある」
「おお、どうでした?」
「特に何も。しいて言えば隠れ家として使えそうだとは思ったな。まあ、使わなかったが」
「……そう言えばレイさんって、人間の中に混じって暮らしてたんですよね」
レイさんが追われてる理由は吸血鬼であることがバレたからだけど、そもそも人間と距離を離れて過ごしていればそうはならなかった筈だ。
人間の血を吸う為なら近くに居る必要があるのかもしれないけど、レイさんの場合はそうじゃないし。
「離れて暮らそうとは思わなかったんですか?」
「思ったさ。人間以外の集団に身を寄せたこともあった。だが、結局はこうして戻ってきてしまう。……何故だろうな?」
「……」
自分でも分からない、といった感じで、レイさんは自分を笑うように言う。それが何だか僕にとっては寂しげに感じた。
人間以外の集団に、っていうことは人間の中で暮らそうとするのは一人で居るのが寂しいからってワケじゃない筈なのに。
というかレイさん自身がその理由が分からないのなら、多分僕も分からない。でも。
「まっ、もう苦労して隠れる必要も無いですし、レイさんの思うように生きて行けばいいんですよ!理由はともかく!」
「……ああ、そうだな」
いつものレイさんの感じに戻って、安心する。そう、僕の良く分からない魔法があればレイさんは苦労せずに暮らしていける。思ったように生きていける。
だからこそ、僕と同じように色んなことを楽しんで貰いたい。そうなれば僕は嬉しい。
「じゃあ、行きましょう!」
さしあたって、僕達が向かうのは迷宮だ。人混みの間を通って建物の中に。すると受付のカウンターっぽいのがずらっと広がっていて、それぞれに探索者達が並んでいる。
ライオット大森林の時もあった仕組みだ。探索者は未踏地に向かう場合は管理の人にそれを伝えないといけない。
僕達はその内の一つの列に並んで、しばらくして次の方どうぞー、という声が聞こえて来る。受付はしゅっとしたお兄さんだった。
「迷宮探索の申し込みでしょうか」
「はい!」
「それでは所属探索隊名とお二方のお名前を」
「『レイとサンゴ』のレイとサンゴです」
「ありがとうございます。お二方は迷宮探索の経験はお有りでしょうか」
「初めてです」
「分かりました。それでは講習を受けて頂く必要がありますので、あちらの部屋に入ってお待ちください」
……講習?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます