第28話 自由に

 獣人と人間は色々と違う。とはいえ、根本的なところは大した変わらへんのやろうな。


 ウチの故郷のセイレーンは基本二種類。緑の羽根を持つ緑翼と、赤い羽根を持つ赤翼。種類言うてもそれ以外はなーんも変わらん。ほんまに見かけの色が違うだけ。


 やのにそこにはがあった。というかウチが産まれた時にはそうなってた。崖のあっち側に住んでるのが赤翼。こっち側に住んでるのが緑翼。そうなるまでに色々と経緯はあったらしいけど、基本的に仲は悪い。


 ウチが産まれたのは丁度この仲の悪さが高まってた時期で、それがピークになったのは一個の事件がキッカケやった。


 というのも、赤翼の何人かがこっち側に来てまあまあ大きいイザコザ起こして緑翼の何人かを怪我させよった。そんでその怪我をした中には、こっちのお偉いさんの大事な大事な世継ぎがおった。


 で、お偉いさんはキレよった。報復として赤翼に戦いを仕掛けるって息巻いて、周りの側近共もそれに同調する。お偉いさん周り以外にも赤翼は気に食わん言うヤツが結構おって、あっという間にそういう流れや。


「奴らは我らを侮りすぎた。――戦いだ!先人達がそうしたように、血は血で贖わなければならない」


「待ってください父上!私はもう平気です!他の怪我人達も命に支障があったワケじゃない!こんなこと、する理由がない!貴方は何をお考えか!」


 そんでまあ、事件の当事者やった世継ぎはそれに反抗した。怪我したことを気にしてへんワケちゃうけど、それが理由で戦いってなんやねんって感じで。


「怪我を負った者だけが全てではない。その者達を取り巻く全ての為の報復なのだ。そして我らはこれまで幾度も奴らの理不尽な干渉を受けてきた。いや、我らだけではない。数多の先人達が何世代にも渡り奴らの風を跳ね除け、その度に威を示してきたのだ。だからこそ我らもそれに続く必要がある。これは緑翼全体の報復であり、大義の為の戦いなのだ」


 それに対するお偉いさんの答えはこうやった。どうやら戦いなんてゴメンや思っとるヤツのことなんて目に入らんし、赤翼と仲良うしたい思っとるヤツの声は耳に入らんし、緑翼かて赤翼にアレやコレやしてきた事は見いひんかったことにするらしい。


「それが理解出来ないお前ではないだろう、――ピルカよ」


 うっさいねん。理由?大義?それがあったらええんか?それさえあればまだ大人に成りきってへんようなガキ共も巻き込んでええんか?


 もっともらしい言い分があれば、こっちがされて嫌やったことをそっくりそのまんまあっち側にしてええんか?


 そんな大事なんか?理由が、言い訳が。


 ――やったらウチは自由に生きたる。思うままに、自分の心に言い訳せんでも済むように。その為の翼と風や。


 だから後はもう、勝手にやっとれ。


 そんなこんなで、世継ぎは故郷を飛び出したらしい。






 ☆





「そうか」


 僕の答えになってるか怪しい答えを聞いたピルカさんは一言、そう呟いて空を見ていた。


 大丈夫だよね?これが原因で合否が決まるとかないよね?そんな感じでハラハラしていると、強めの風が横から吹いてきて思わず目を瞑る。


「アンタにとっては、それは考えてするもんちゃうんやな」


「助けられるなら助けるのが普通というか。もちろん困ってる人全員を助けるとかは僕には出来ませんけど、今回に関しては成り行きというか」


「は、なんとなくでここまでしてやるんか」


「まあ、そんな感じです。だから大した理由なんてないんですよ」


 騎士団の人とかピオーネさんみたいな誰かを助ける仕事をしてる人はちゃんとした理由とか心持ちがあるんだろうけど、僕はそうじゃない。冒険がしたいだけのただの探索者だし。


「だからこんな答えしか出来ません。ごめんなさい」


「何を謝っとんねん。それでええやん」


「……良いんですか?」


「別に大層な理由やら、ハッキリした芯があれば偉いワケとちゃう。ええと思ったことをやる、悪いと思ったことはやらん。そんくらいでええ。そういう生き方は何よりも……自由。そう、自由なんや」


 それは僕に言ってるというより、何となくピルカさんが自分自身に言ってるようにも聞こえた。それからちょっとの間沈黙があった後、ピルカさんは僕の方を向いて明るく笑った。


「一曲歌いたい気分になってきたわ。観客付きでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る