第27話 なんで
結局、ウチの当初の目論見やった途中で呆れて諦めるやろ作戦は上手くいかんかった。
やからそのまましばらく遊び歩くことになったワケなんやけど、その甲斐あってコイツがどんなヤツなんかが少しづつ分かってきた。というより確信した。
コイツは、なんちゅうか
「僕のせいで怪我しちゃったんですか!?……お金?いやいや、僕回復魔法が使えるんで――」
「……っちょいちょい!急に立ち止まったからなんや思たら、そういうのは真面目に受け取らんでええねん!コイツら当たり屋っちゅうーヤツや、してもない怪我をした言うて因縁付けて金せびろうとしとるこっすい奴らなんや。……なんや文句あんのかいな。このツメと羽が見えとらんのかぁ、ああん?さっさと失せろや!頭から食うてまうぞコラァ!」
「あっ、行っちゃった……ピルカさん酔ってるんですか……?」
「まだシラフや!ウチを酔いどれ扱いする前に少しは危機感持たんかい!」
分っかりやすい当たり屋の言葉をいちいち本気で受け取りよるし。
「今なら半額!?えーっ、でもなあ、それでも今あるお金全部使っちゃうのは……え!?そこからもう一回半額でも良いんですか!なら――」
「なら、ちゃうねんアホ!こんだけジャバジャバ値下げしても構わんってことは元々大した価値があるモンちゃうんや。そもそもこんな木刀
「待っ――え、なんか急に風が、押され……!あっ魔法かこれ!止めてくださいピルカさん!今なら半額の半額で半々額なんです!」
よう分からん木刀を大枚はたいて買おうとするし。
「こっちに何かあるんですか?未経験でも大丈夫……?忘れられない一歩を……?未知への冒険……?き、気になる……!案内して――」
「あかんあかんあかんそれはあかん!どう考えてもアンタにはまだ早いヤツやそれ!というかこんなガキ捕まえて客引きすなやお前!……は?男のキャストも
終いには客引きにホイホイ付いて行こうとする始末。というかアイツはいつかしばく。
――とにかく、コイツは今まで見た事ないほど天然ちゅうか、能天気というか、危機意識がないというか、人の悪意に鈍感や。
なんでこんなヤツがここで今日まで無事やったのかは……あのレイとかいう女が側におったからなんやろな。アイツウチらの後を一日中つけとったみたいやし。
何者なのか分からんのは変わらずやけど、熱心な保護者なのは確からしい。
というか、ウチもその保護者そのものやん。振り回したるつもりが終始振り回されとったし、まあまあ飲んだのに酔っぱらってる暇もなかった。
でも、それが不快やったか言われると別にそうでもない。やってること自体はメシ食って酒飲んで見せモン見て遊んでただけ。
アレコレ質問されたりもしたけどそこに悪意は無い。
コイツがどこまで考えとったかは分からん。ただ、シンプルに物事を楽しんどるのは分かった。
「ピルカさーん!あっちで楽器の演奏してるみたいですよ!行ってみましょう!」
「はっ……そんな急いだら転んでまうでー」
――どうやら、心の底から楽しんどるヤツの横に居ると、こっちも自然と楽しくなるもんらしい。
☆
「ここにはあんまり人が居ないんですね」
「場所が場所やし、大通りから外れとるからな」
陽が落ちかけた夕方の頃。僕達は大通りから外れた広場のような場所に来ていた。軽く丘のようになった道の先にある場所なだけあって、ここからは探索都市を上から眺められるようだった。
流石に一望とまではいかないけど、今まで歩いて来た道とか通り過ぎてきた建物が奇麗なオレンジ色に小さく染まっているのは何というか、思わずぼんやりと眺めてしまう光景だった。
「良い眺めですね」
「そうかあ?こっから見たら余計狭苦しく感じるわ。空がええ景色なんは同意やけど」
「街中だと居心地が悪かったりするんですか?」
「いや、そういう訳でも……あるかもな。他と
そう言ってピルカさんは夕陽でほんのり赤く染まった苦笑いを浮かべる。ここに来るまで、ピルカさんには色々と質問したし答えても貰った。獣人と呼ばれる人がどんな場所に住んでるのかとか、軽くだけど。
だからピルカさんが何を言いたいのかは僕なりに理解は出来る。そして、別にこれが重い話ではないってことも。
「って、そんなことはどーでもええねん」
「ですよねー」
「お、なんやその反応。ウチのこと理解しとるとでも言いたいんか?」
「ちょっとくらいは。雰囲気が重くなるのが嫌いそうだなとか、結構真面目というか厳しいんなんだなとか」
「……今日だけで全部理解出来た思っとったらアカンで。そこまでやっすい女なつもりないし。というか、ウチが真面目に見えたり厳しく見えるのはアンタが無防備なだけやゆーねんっ、と」
ふわりと翼を羽ばたかせて跳んだかと思うと、次の瞬間にピルカさんは近くにあった木の枝の上に立っていた。見下ろすような位置に居るからか、ピルカさんは真剣な表情をしているように見える。
「じゃ、そろそろ結果発表といこか」
「結果……あ」
「アンタ、もしかして忘れてた言わへんやろな」
疑うような視線が痛い。正直忘れてました。いや、ね?始まってそうそうに楽しませよう!って感じで行くと逆に空振るなと思って、深く考えるのをやめることにしたから。
そうか、そう言えばそういう話だったんだ。ピルカさんが今日一日を楽しかったと感じてくれたのなら、僕の望み通りに歌を歌ってくれる。そういう条件だった。
「ま、ええわ。ほなドキドキの結果発表行くでー」
「お願いします!」
「ウチは今日一日アンタと一緒に居って」
「……」
「ここに来るまでの間」
「…………!」
「――をどう感じてたのかを言う前に、一個聞きたいねん」
「ええっ!?今!?このタイミングで!?この後じゃダメなんですか!?」
「おほ、ええ反応しよる。まあ別にダメってワケでもないんやけどな、大した質問ちゃうし先に聞いときたいねん。アンタの目的はウチの歌でアンタが助けた探索者を治療することやねんな」
ピルカさんを訪ねることになった経緯はデートの前に軽く話してある。だからある程度、ピルカさんも事情は知っている。流石に具体的な内容は話してないけど。
「はい」
「それはなんでなん?」
「なんで、って」
「アンタが助けて身体も治してやったんやろ。ならその時点で十分やん。そもそも、探索者なんてモンは自分の身に降りかかるリスクを許容して自己責任でやるモンや。ハナから見知らぬ誰かの助けなんて期待するもんちゃう。でもアンタはソイツを助けた。それも回復魔法のオマケ付きで。十分も十分やん。これ以上、アンタが何かしてやる理由ってなんなん?」
「理由……」
「顔も知らん他人やったんやろ?ウチに付き合ってまで、なんでそないに助けようとするん?謝礼が貰えるからか?ええカッコしたいからか?それか、その助けられた探索者って女やったみたいやし、惚れでもしたん?」
聞き覚えのある質問だった。そうだ、アイスさんにも同じようなことを聞かれたんだった。大した質問じゃないと言いつつ、ピルカさんの声音には遊びがない。
うーん、何回聞かれてもちゃんとした答えなんてないんだけど、素直に言うしかないよね。
「僕は――」
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