第26話 デートデートセイレーン

 ちゅーわけで、やって来ました中央大通り。名前のまんまでここら辺は探索都市のど真ん中、目印は探索都市のどこに居ても見えるでっかい塔。


 ど真ん中なだけあって昼夜問わず人通りは多いし、商売人やら大道芸人やら良く分からんヤツやらが大勢蠢いて混沌としとる。つまり、遊ぶには持って来いな場所や。


「うわあ……ど真ん中まで行くとこんなに賑わってるんだ……」


 横におる田舎もん丸出しのガキ、サンゴは緊張感の欠片も無い間の抜けた顔で通りの先を眺めとる。


「ちょいちょい、ウチはともかくアンタはただ遊びに来たってワケちゃうねんで」


「はい、分かってます。ここで、それが歌の条件ですよね」


 そう、これはデート。とはいえもちろん、男と女がただイチャコラするもんではない。サンゴコイツがウチをどこまで楽しませられるかの試練みたいなもんや。


 ――ぶっちゃけ、歌なんてめんどいしさっきまで顔も知らんかった相手の頼みを聞く必要なんてない。


 とはいえ暇やったし、普通のガキの癖にどう見ても只者ちゃうあの女と二人で居るコイツには純粋に興味があった。


 だからこそデートなんて言い方してみたワケやけど、ちょっと二人で話し合った後に普通に了承しよったし、今んとこはよう分からん。


「さ、どうする?まずは何を目当てに歩く?言っとくけど、つまらんかったら帰るし歌の話もナシやからな」


「…………食事に、行きましょう」


 ちょっと考えた末の答え。まあ無難やな。もう昼時やし、実際腹は減っとる。


 ただコイツは。気になるとしたらそこ。……うひひ、これは見物やわ。





 ☆




 と、思ってたんやけど。


「さあ寄った寄った!ここまで来たからにはこのニンバス焼きを食わない理由はねえぞ!」


「何あれ魔獣!?食べていいの!?」


「格別な香りだろう!ザック山の高所でしか取れないスパイスを使っている!ここを逃せば次はいつ食えるか分からないぞ!」


「うわっ!凄い匂い、気になる!」


 建物やなくて手作り感満載の屋台が立ち並ぶ一帯。そこら中から食いもんの焼ける音やら匂いやらが漂ってくる中、サンゴは楽しそーに目移りが止まらん様子やった。


 さっきの神妙な顔はどこいってん。ここに来た目的忘れてへんよな?


「ちょい、ちょいアンタ」


「ピルカさん、アレにしませんか?値段もそこまで高くないっぽいんですよ!あ、お酒もあるみたいです」


「分かったて。あのな?気ぃ良くするのはええんやけどな。アンタ、ウチを楽しませるって目的は……酒?」


「はい。買うとサービスで付いて来るらしいです。まあ僕は飲む気は無いんですけど」


「――よっしゃ、アレで決定や。買いに行くで」


「分かりました!」


 うん、まあもう何でもええわ。とりあえずメシいこ。タダで酒が付いてくるってええ話や。ほんまにええ話。


 サンゴが言うとったのは変則的な肉屋のことやった。でっかい肉を焼きながら削って野菜やらソースやらと一緒にパン生地に挟む。


 串焼きとかと比べると手間がかかる分、大味やないええバランスのメシに見える。……偶然やろうけど割とウチのツボを突いてるな。サービスにしとるだけあって酒との相性も良さそうやし。


 サンゴはウチの了承を貰ってから、ウキウキで店の前まで行って店主に注文する。


 注文の確認を取った店主はテキパキと用意をしながらもウチの方をチラチラ見とった。このおっさんは気づいとるみたいやけど、サンゴは横で相変わらずそわそわしとる。


 そうこうしてる内に用意が出来たようで、おっさんは代金と引き換えに二人分の料理を手渡して、サンゴはそのままウチに向かって振り返る。


 で、料理を手渡そうとして気づいたらしい。


「ホンマに気づいてなかったん?」


「……はい」


 やらかしたとでも言いたげな気まずそうな顔。それもそうで、ウチの手はコイツみたいな器用にモノを持てる手ぇちゃう。


 これやったらツメにぶっ刺せば一応はいけるかもしれんけど、汚いし流石にそれはしたない。


「――あーあー、やらかしてもうたなあ。これは大幅減点かもしれんなあ」


 別に怒ってへん……というか実際のところは怒る理由が無いんやけど、なんか真剣に考え込んでるしどんな反応するか気になるから詰めてみたろ。


「どないするー?ウチもうお腹ペコペコなんやけどなー。どう食べればええんやろかー?」


「……ます」


「ん?」


「僕が、手伝います」


 ……それウチが食べさせて貰うってことやないか。なんでさっき会ったばっかりのガキにあーんされなアカンねん、普通のデートちゃう言うとるやろ。真面目な顔して何を言っとんねん。


「じゃあピルカさんから――」


「ああもう分かったて!そんなんせんでも自分で食える!ちょっとからかっただけや!」


 ウチの口に突っ込もうとする手を前にして慌ててネタバラシ。流石に恥ずかしいて。


「へ?」


「冷静になって考えてみい。この手の食いもんが食べられへんかったらウチは探索都市ここでどうやって生きとんねん」


「……確かにそうですね。でも、どうやって?」


「見せたる。それ、手離してええで」


「? ……あっ」


 サンゴが手を離した瞬間、僅かに上下しながらそれは空中に浮遊する。


「風を操る魔法の応用やな。固形物やら容器やったらこうやって浮かべられる。後はこのまま口に運べばええだけや」


「へえー……!」


「結構難しいねんで、これ。慣れてへんとバランスが安定せんし、安定出来ても持続が出来んかったら意味ないからな。……美味いな」


 一口齧ったら中々の美味さやった。スパイスの辛みがええ感じに効いとる。ウチが食べるのを見てサンゴも食べ始めとるけど、美味そうな顔しとるしウチと同じような評価らしい。


「……なるほど。魔法って奥が深いんだなあ。セイレーンだったらみんな出来るものなんですか?」


「無理やろな。似たようなこと出来るヤツは居るやろうけど、ウチレベルに上手いヤツはそう見つからん」


「ピルカさんが特別凄いんですね。僕も魔法を練習してたからちょっとは分かるんですけど、大変ですよね」


 ……なんや手放し褒めてくるな、ご機嫌取りか?いやでも、そういうはない。普通に気分良くなってまう。


「ま、まあ、そもそもウチらは本来ならこんなもん食わんからな。ウチが異端で、その為に出来るようになる必要があっただけや」


「やっぱり、普通なら動物とか魚をそのまま食べるんですか」


「せやな。見た目こそアンタらと似通ってる部分があるとはいえ、ウチらはアンタらより基本丈夫に出来とるし。とはいえ、前みたいな食生活に戻る気はないなあ。どう考えても味気ないやろうし……って、そういえば酒は?」


「あそこから一杯取るらしいですよ」


「ほーん?じゃあこっから……浮かしてこっちまで……ほい!」


「すご!一滴も零れてない!」


「なはは、こんなん余裕のよっちゃんや。――かぁー!昼間から飲む酒はやっぱり美味い!」


「……よっちゃん?」


「ああーよっちゃんっていうのはなあ――」


 ……ヤバイ、適当におちょくってたら呆れてどっかしらで帰るやろ思てたのに、全然そんな気配ないやん。


 それに……なんか普通に楽しなってきてもうた。あ、酒が美味い。

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