第7話 ふわふわ・もこもこ

「とりあえず返事をしないといけないわね。というかどうして貴方は返事してないの? 信じられないんだけど」

「いや、それは……」


 俺が返答に困っていると丁度俺たちの順番が回ってくる。

 店内に入るとすかさず宮下はみたらし団子を注文した。せっかくなので俺も同じものを頼んでみる。テイクアウトも可能だが、まあ流石にこの人混みでみたらし団子を食べ歩くのはある種のテロ行為みたいなもんだろう。


「で、返事なんだけど」


 と切り出したタイミングでみたらし団子がやってくる。

飴色に輝き、香ばしい匂いを放つそれを見て、宮下は途端に目を輝かせた。……忙しい奴だな。


「相沢君、せっかくだから私が食べてるところを撮ってくれない?」

「あ、あぁ。俺のスマホでいいのか?」

「もちろん」


 言われた通りにスマホを構える。一口目をかじり、その甘さに悶絶して頬っぺを手で押さえる宮下の写真が撮れた。


「どう? 上手く撮れた?」

 基準がよく分からないので手渡して確認してもらうことにする。

「うん、まあまあね」

 そう言って宮下は何故か俺のスマホを操作し始める。

「ん、これでよしっと」

 ……嫌な予感がした俺はスマホを返却されると同時に岸野とのトーク画面を開いた。


『可愛いな』

『でも仁美の方がもっと可愛いぞ』


 このとんでもないメッセージの後には、さっき撮ったばかりの写真が送られていた。


「おい! 何してくれてんだよ!」

「待って!」


 俺の動きを見てメッセージの送信取り消しをしようとしているのを察したのだろう。宮下は手のひらをこちらに突き出して俺を制止した。


「私が貢いだのはワンピースだけじゃないわ」

「……お前自分から都合のいい女に成り下がってないか?」

「まあとにかく聞きなさい。きっと葵は私に対抗してまた写真を送ってくれると思うの。それはつまり私のこれまでの努力が報われる瞬間よ! 後のお楽しみにしておきたいから何を貢いだかは中々言えないけれど……。そうね、ふわふわ・もこもこのうさぎさんパジャマを着た葵を見たくはないかしら?」

「お前何送りつけてんだよ……。絶対着ないだろそんなもん……」


 とは言いつつも想像してみる。

 しかし俺の脳内に浮かんできたのは、小動物顔負けの可愛さを誇るうさぎ姿の岸野ではなく、その可愛さで萌えポイントが破産して爆死する宮下の姿だった。そっちの想像があまりにも容易すぎる……。


「相沢君、これは私と葵のチキンレースなのよ」

 宮下は何故かしたり顔で続ける。

「これから私とあなたが仲良くデートしてる写真を送る度に葵が何かしら反応してくれる。それってあなたも役得じゃない?」

「……そう都合よくならないと思うけどな」

「そうかしら?」


 宮下は笑った。何処か勝ち誇るような笑みで。正直ちょっとイラっと来たが、実際役得であることには違いないので黙っておくことにした。


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