第3話 テストは散々だった
……一つ言えることがある。
それは俺が没頭できるものは勉強ではなかったということだ。まあ知ってたけど。
一応、野球を辞めるって決意した中三の夏から俺なりに猛勉強して、なんとか自称進学校レベルの我が校に滑り込めたが所詮は付け焼刃。
授業についていけないって程ではないが、〝ま、まあ……? 俺は本気出せばなんとかなるし……?〟と中途半端な成功体験が勉強のやる気を見事に削ぎまくっていた。
要するに中間テストが終わった。…………色んな意味で。
出席番号順に並べられていた机を元の位置に戻して、隣にいる川村に話しかける。
「なあ川村、欠点って何点以下だっけ」
「え、お前帰宅部なのにそんなヤバいの?」
「……ナチュラルに傷付けてくるのやめろ」
帰宅部関係ないだろ。いやあるか。暇だけが取り柄みたいなもんだもんな、帰宅部……。
でもテストの一週間前はどの部活も休みなんだし条件的には似たようなもんじゃね、と誰に聞かせる訳でもない謎の言い訳を残しておく。
「んんっ」
と声を出して一伸び。
大して勉強もしてないくせに一丁前にやり切った感を演出する。そのまま椅子ごと倒れそうになるぐらい仰け反っていると、不意に岸野と目が合った。
「…………」
まあ、だから何って話だが。
そういやあの日から岸野とは会話をしていない。教室での岸野は相変わらず無口&無表情なままだ。
ただ、この間みたいにLINEが飛んでくることがある。
言うまでもなく内容は阪神絡みだ。
試合前になると必ずと言っていいほど今日の見所が物凄い長文で飛んでくる。
そしてそのまま実況が延々と垂れ流される日もある。……マジでなんなんだろうな、これ。ちなみに一回だけ返事をしてみたが、その瞬間実況がピタリと止まって既読無視されてしまった。いやだから、何がしたいんだよこいつは……。
そんなことを考えながら姿勢を正していると、ポケットでスマホが震えた。岸野からだ。
『お礼がしたい』
あまりにも唐突な内容に首を傾げつつ返事を考える。が、途中でめんどくさくなった。
「お礼って?」
振り返って直接尋ねると、岸野が目をパチクリさせる。そして突然バッと机に顔を伏せた。
……え、は? 何これ? 俺、嫌われてる?
そんな訳ないと思いたいが、絶対防御態勢に入った岸野は甲羅に潜った亀のように微動だにしない。しばらくそのまま待っていると、またブブっとスマホが震えた。
『土曜日暇?』
改めて岸野を見るが相変わらず顔を突っ伏したままだ。仕方なく俺も担任にバレないように気を付けながらコソコソと返事をする。
『まあ暇だけど。つーかなんで一々LINEなんだよ』
『九時に駅集合で』
『だから……ってか早いな。まあいいけど。何すんの?』
『お礼』
いや、それは答えになってないんだが……。
『だからお礼って何?』
と送り返すと岸野はいきなり立ち上がった。どうやらホームルームが終わったらしい。
しかし明らかにフライングで立ち上がってしまったせいで、かなりの注目を浴びていた。
それでも岸野はその勢いに任せて早足で教室を出ていく。
……なんだあいつ。
画面には既読無視されたメッセージがいつまでも残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます