第2話 帰宅部相沢君の退屈な日常
結局俺の心配は杞憂だった。
放課後になっても誰からも言及されなかったからそう確信して問題ないだろう。
午前中はまだちょっとそわそわしてたけど、昼休みを超えた辺りからは眠気が勝って気付いたらホームルームになっていた。休み時間を跨いでぶっ通しで寝たのは初めてな気がする。
担任がホームルームの終わりを告げて生徒がそれぞれ立ち上がる。
俺もその流れに乗って教室を出て、せっせと自転車をこぐ。そうして誰よりも早い帰宅を決めた。少しダラダラしながら私服に着替えて、スニーカーを履いて再び外に出る。
帰宅部は暇だ。
うちのクラスはおよそ八割が部活やら同好会といった何かしらのコミュニティに所属しているらしいが、ハッキリ言ってそれが当たり前だと思う。単純にやることがないからだ。
三時半に解散を告げられてフリーになっても、やることがなければ時間を持て余してしまう。動画サイトを適当に漁って寝落ちしてたらすっかり日も暮れていたなんてのはざらだ。
だったら残った二割と仲良くなればいい――という訳にもいかず、彼彼女らも蓋を開けてみればバイトだったり学外のコミュニティだったり結局何かしらに属していることが多い。そうじゃない奴らは自ら進んでぼっちに走る趣味人なんだと思う。教室でもずっと一人でいたりするし。岸野なんてこれの筆頭だろう。
だから本当に毎日やることがない奴なんてのは、案外俺ぐらいなもんなのかも知れない。
中学卒業までは野球漬けだった日々。
辞めた時はあんなに清々してこれからの毎日を楽しみにしてたはずなのに。
いざ有り余る膨大な時間を目の前にした時、何をすればいいのかさっぱり分からなくなってしまった。
結局、こうして俺が放課後にやってることは中学時代とほとんど同じ。
河川敷のランニングと筋トレ。投げ込みを抜いただけのルーティンだった。
しかし目的がない自主トレはどうにも張り合いがなく、日に日に身が入らなくなっていってるのを感じる。挙句の果てには、〝この時間に意味はあるのか〟とかしょうもないことを考え始めてしまう始末。
実際、意味なんてないんだと思う。
俺がやってることは健康のためにジョギングをしてる爺ちゃん婆ちゃんと同じ。まだ健康にそこまで気を遣わなくていいことまで考えたらそれ以下なのかも知れない。
怠惰な日々を否定するための苦しい言い訳みたいなもんだろう。
それでも俺は後悔しないつもりだった。
俺の選択は間違っちゃいない。今はまだ何をすればいいか分からないだけ。そのうち俺はまた何かを始めて、時間を忘れて没頭する日々が帰ってくる。
そうやって自分に言い聞かせるのにもいい加減飽きてきて、無理くりランニングのペースを上げる。
次第に血中酸素が薄くなっていって、走ること以外何も考えられなくなっていく。
今はこの苦しさが心地よかった。
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