第二話 一等星になれなかった君へ

第1話 こっちはセーフだった

 翌朝、自転車で学校へ向かう。その足取りはかなり重かった。気乗りしない身体を奮い立たせるために、イヤホンをつけていつもより音量を上げて曲を流す。


 正直周りの音なんてほとんど何も聞こえてないが、見晴らしだけが取り柄なこの町で事故なんて早々起きやしない。努力義務のヘルメットってそのうち強制になるんかね、とぼんやりとした頭で適当なことを考えて現実逃避を図るが、学校が近づくにつれてそれも出来なくなってしまった。


 昨晩からずっと纏わりついていた心配事が、一層色濃くなって脳裏に過る。


 もしかしてバレてるんだろうか……。


 流石に自意識過剰だと思う。テレビに映ってたのなんてほんの数秒だし、そもそも昨日の試合を見ていたクラスメートなんてかなり限られるはずだ。

 でも行くって言った手前川村と山本ぐらいは見てるかも知れない。なんにしろあんな格好で応援してたのがバレるのはやっぱ恥ずかし過ぎる!


 昨日の自分を否定する訳じゃないが、両親にあんなイジられ方をした挙句クラスメートにまでイジられたら、顔から火が出る特殊能力とか手に入れられそうな気がする。黒板に岸野と俺の相合傘とか描かれてたらどうしよう……!


 そんな小学生でもしなさそうな妄想をしながら教室に入る。一応黒板を見たが何も描かれてなかった。


 席に着く前に川村と挨拶を交わす。山本も近づいてきて、結局いつもの三人になった。


「よう相沢、結局昨日はどうだったんだ?」と川村。

「え、ああ。まあなんとかなったよ」

「なんとかって? 相手見つかったのか?」

「ん、まあな」


 俺は努めて平静を装う。そのまま曖昧にしたかったが、山本が割って入ってきた。


「え、相手見つかったのかよ。誰? 俺らの知ってる奴?」

「……んー、どうだろ。知らねーんじゃねーかな。俺も喋ったことなかったし。なんかあの後偶然ついてきてくれることになってさ」

「なんだそれ。それなら一人で行った方がマシだったんじゃねーの」

「いや、まあなんだかんだ楽しかったよ」


 嘘は言ってないつもりだ。喋ったことない相手を知らない人間にカウントするのはセーフだろ。

 のらりくらりとした俺の返答に興味を失ったのか、川村が笑いながら話題を切り替える。


「っていうかめっちゃ塩試合だったな。たこ焼き並べて最後ソロ打たれて負けとか一番しょうもない試合じゃん。まあ結果しか見てないけど」


 俺は椅子を引いて立ち上がった。


「そうか! お前見てないのか!」


 そのまま川村の肩をポンポン叩いて満足げに頷く。


「えっ、なんで急にそんなテンション上げてんの……」

「いやー、見なくていいんだよあんな試合。うんうん。良かった良かった」

「なんだお前……。楽しかったんじゃなかったのかよ……」


 俺のあまりのテンションの上がりっぷりに二人とも軽く引いていた。でも許してほしい。なんせ昨日はあんだけ疲れてたのにまともに寝れやしなかったのだから……。


 とその時、背中に突き刺さるような視線を感じた。

 ミスをした選手を責め立てるかのような、じっとりと湿り気を帯びた視線。


 思わず振り返――らない。何故なら岸野が今どんな目で俺を見ているか容易に想像できるから……。


 ひしひしと感じる視線をひたすら無視し続けていると、ポケットの中でスマホが振動した。会話が途切れたタイミングで手に取ってみると、LINEのメッセージ通知が一つ。岸野からだ。


『全然塩試合じゃない』


 いやそこかよ! ……まあ確かにそうなんだけどさ。

 自分で言うと恥ずいけど、岸野と行ったことを誤魔化した理由とか言及されるんだと思ってたわ。やっぱ俺って自意識過剰なんすかね。

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