109.罠の気配(1)
リザードマンの城塞都市青の都攻城戦はついに、終局を迎えた。
南西の城壁側を突破し、城門を開門した。門さえ開けば、この戦は金獅子の団が勝ったも同然だった。後は、城門から入ってくる本隊と共に中を鎮圧すれば終わりだ。ルーナ達南東側の軍も戦意を失ったリザードマン達を押し退けて壁内の階段を降りていく。
城壁外の城門前で待機していた本隊の中でリオは遠目にその全体の様子を眺めていた。眉を寄せ、いつになく訝しげだった。
「どうした? リオ」
隣で待機していた副団長ヘイグがリオの様子に気づき尋ねた。
「戦は勝利した。何か気に入らない事でもあるのか?」
「ああ、いや......。別になんでもないよ。なんというか、うーん。妙に......」
「妙に?」
「......引っかかる、と言うか......」
*
南東側の城壁内部の階段を一気に駆け降り、青の都に侵入したルーナ達はまだ戦う気力の残っている残党兵達を始末しつつ生き残った市民を捕獲していた。捕まえた市民は暴れない限りは危害を加えずに東の塔の前に集める。また、武器を捨てて投降する兵士も同様の対応をとる。
戦が終わったことで、乱れていたルーナの心は少し落ち着いた。ルーナ隊を引き連れ抵抗する残党兵を着実に始末していく。
「しかし、ここまじで迷路みたいね」
ルーナがため息混じりに言う。
石造の家がそこかしこに入り組んでいる。城塞都市青の都は水路が発達した都市で巨大水路が中央道路のような役割を果たしていた。船はリザードマン達が必要としないためほぼ無い。従って、ルーナ達は陸路を使っているのだが、水路とは違って入り組んだ構造をしていて迷う。城壁の上から街に入る時点で隊が乱れていたが、街に入ってからはこの迷路構造のせいで残党兵を追っていくに連れて味方が徐々に分断していた。大きな軍は鎮圧し、もう既に戦は終わったも同然なのでそこまで気にしないが、今目につく範囲では、他数十人のルーナ隊とパトリシアがいるだけである。
ルーナはきょろきょろと周りを見渡す。
その時、信じられない光景がルーナの視界に入った。
「――――っ」
バタンッと音を立てて民家から一般人と思しきリザードマンが転がるように出てきた。そして鎧を着た騎士達が数人、後から出てきてリザードマンを取り囲む。騎士達はルーナは見覚えがないが、金獅子の団の格好だった。
「た、助けてッ」
リザードマンは若い女性のようだった。服が破られ、右頬に酷いあざができている。
「逃げんな。もっと楽しませろよ」
「ひッ......」
騎士が逃げようとするリザードマンを地面に押し倒し剣を向けた。他の男達もニヤニヤ笑ってみている。
ルーナは一目で状況を察し、カッと頭に血が上った。
「あんたら! 何やってんのよ! 一般市民は東の塔に連れていけって命令聞いてなかったの!?」
ルーナは叫び、駆け寄る。騎士達は驚いて、手を止めてルーナを見た。騎士達は3人。全員、体毛に覆われた獣度の高い獣人で、やはり見覚えがない。どこかの隊からはぐれたのだろうか?
「あんたら新人? 見ない顔ね。どこの隊よ」
ルーナが騎士達を問いただそうとした矢先、
「ひっ......『赤い鎧』......!」
襲われていたリザードマンの女が震えた声を出した。彼女は恐怖で怯えきり、目に涙を浮かべていた。
「......大丈夫よ。私はあなたを傷つけるつもりはないわ」
ルーナはなるべく優しい声を出すように努め、兜を脱いだ。ルーナの容姿を見て、少し安心したのか女性の震えが和らいでいく。
ルーナは3人の騎士達を睨みつけた。
「この女性を東の塔に連れていく。戻ったら覚悟しなさい。たっぷりと話を聞かせてもらうわ」
ルーナは深呼吸をし、再び女性に向き直った。
「安心して。さっきみたいにあなたを傷つけるわけじゃないから......」
ルーナは女性を東の塔へ連れていくため立ち上がらせる。
しかし、その瞬間、背後から冷たい殺気のようなものを感じた。周りには味方しかいないはず。だが、ルーナは確かな直感を感じた。ルーナの直感は大抵外れない。
「――――」
ルーナは考えるよりも先に身を翻した。
――――ザクッ
背後から伸びた刃がルーナの心臓から外れ、右の脇下にかすり傷がつく。
「......え?」
ルーナは
――後ろから......刺された......?
ルーナは振り返った。その時、視界に血の噴水が広がっていた。
「ぎゃああああああ」
「うわああああああ」
部下達が一斉に何者かに斬られ次々と倒れていく。部下やルーナを斬ったのは、さっきの3人の騎士達だった。
一気に20人近くの部下が斬られた。3人は相当の手練のようだ。
「......あんた......あんたらああああああッッッ! 自分が何やってるかわかってんの!? 味方を斬るなんて裏切り行為よ! 邪魔されて説教くらった恨みでこんな事するなんて正気の沙汰じゃないわ!」
思いがけず部下を一気に失ったルーナは怒りのあまり絶叫した。
ルーナは、3人の騎士がルーナに邪魔をされたことに苛立って攻撃してきたのだと思った。だが、それにしては何か様子がおかしい。騎士達は何も答えず、獣の牙を見せて冷笑を浮かべている。目には異様な光を宿っていた。
いち早く状況に気づいたパトリシアが、口を開いた。
「......違う......こいつら......裏切り......じゃない......! 味方のふりをした......敵......!」
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