80.貴族になった金獅子の団(1)

 三日後、ロモント城の大広間では大勢の貴族達が集まっていた。その人垣の中心には赤い絨毯が敷かれている。


 ――ギギギィ


 広間の大扉がゆっくりと開く。扉の中心には青年が立っていた。荘厳な音楽を背景にゆっくりと前に歩んで行く。

 金髪に赤い瞳の青年__リオの表情がいつにも増して決意と誇りに満ちていた。彼が歩む その先に、黄金の玉座がありその前には白髪まじりの金髪に碧い瞳の老人__国王が立っていた。

 王もまた満足に満ちた笑みを浮かべていた。リオは王の手前で跪く。腰に下げていた剣を抜き、両手で持って王に捧げる。王は捧げられた剣を手に取った。


「金獅子の団団長レオナルド殿。貴殿の忠誠と勇気に感謝する。この剣を持って我が王国を導け」


 剣の平でリオの肩を叩いた。


 王に剣を捧げる。この儀式、アコレードの意味するところは、騎士の爵位叙勲だ。


 国王はしわがれた声で声高に宣言した


「今日この日より、――


 そう、今日をもって金獅子の団は騎士団となった。すなわち、金獅子の団の傭兵達は全員、騎士となり貴族となったのである。


 平民の......ましてやただの荒くれの集まりである傭兵達が貴族になるなど、前代未聞である。


(ああ......)


 貴族たちの中でオルレアン公爵の娘セーラもアコレードを傍らで見守っていた。王に剣を捧げるリオを見て彼女は目を細めた。


(なんて美しい......)


 セーラだけでなくその場の誰もがその光景に息をのむ。


 まるで物語の一場面を見ているようだ。


 高貴な貴族の衣服を身にまとい上等なマントを羽織っているリオはいつも以上に輝いている。彼が、王の隣に、貴族達の前に立っているのがあまりにも自然__誰もがそう感じたのだった。



「ガハハハ! これはこれはアナタは、かの有名な貴族のヴィクター殿ではないか!」

「そういう貴殿こそ貴族のベン殿ではございませんか!」


 ケンタウロスのベンとドワーフのヴィクターが互いの格好を見て高笑いをする。ヴィクターの方はきっちりとしたシャツとズボンにベストを着てその上に高級なコートを羽織り、黒光りするシューズを履いていた。まるで貴族のようだった。対してベンの方は下半身の馬の部分は特に何も着ていないが、上半身はヴィクターと同じようにきっちりとした貴族の装いをしている。ちゃんと、ヴィクターにはドワーフサイズの小さな服を、ベンには体格の良い上半身に腰部分の馬特有のカーブがつくような形の服をそれぞれピッタリになるように仕立てられている。


「みなさん浮かれてますね……」


 明らかにウキウキしている2人を見て、苦笑しながらアランがやってくる。


「これはこれは、貴族のアラン君ではないか!」


 ベンとヴィクターがハモった。「僕はこれでも、この間まで貴族やってたんですけどね〜」というアランもまた同様に貴族の装いをしていた。


 ここはロモント城の中。眼前には城の大広間のまばゆい光景が広がっている。高い天井にはクリスタルのシャンデリアがまばゆい光を放ち優雅に着飾った貴族たちを照らしている。


 リオがアコレードをしたこの日、金獅子の団は騎士団になった。そして彼らはついに貴族になったのだ。この記念すべき日の夜、ロモント城では盛大なパーティーが執り行われる事になった。


 今夜の主役は、金獅子の団。


 ついこの間の貴族のパーティーでは警備する立場だった彼らが、今夜は貴族の服に身を包みパーティーに参加していた。と言っても、全員が参加するわけにもいかないので今夜パーティーに招かれたのは、リオを始め、ヘンリー以外の英傑達だ。彼らは流石の戦場の猛者達で、煌びやかなパーティー会場の中で異質な存在感を放ちひときわ注目を浴びていた。


「英傑が揃っている中で、僕だけお呼ばれされちゃうなんて、光栄というか恐縮と言うか......」


 アランは苦い顔をする。


 英傑といえども、彼らは荒くれの集団。少しでも貴族たちに良い印象を与えるために、マナーや言葉遣いに心得のある元貴族のアランも呼んだのだ。


 六大英傑の内、灰狼の獣人である副長ヘイグは、昔の馴染みなのか数人の貴族ともう既に随分話し込んでいるようだった。


 ちなみに純エルフのヘンリーは「片腕がないと貴族達が怖がっちゃうから」と言ってパーティーの参加を断った。おそらく、それは建前で、本当は貴族のごちゃごちゃした行事が嫌なだけなのだろう。 きっと、ここにはいない金獅子の団の傭兵達は、酒場で集まってワイワイ貴族昇格を祝っているはずだ。ヘンリーもおそらく他の皆と一緒に酒を飲んで楽しんでいる事だろう。


「ハーハッハッハッハ! そんな片田舎の元貴族なんか呼び寄せずとも、この俺グレン・フォン・ロレーヌがいるだろう!」


 ロレーヌ家嫡子(と本人は思い込んでいる)の、英傑が一人グレンがやってくる。茶髪を普段よりもきっちり整えており、顔はもとより美形なので貴族服もよく似合っている。


 グレンが近くにいる女性貴族の塊にウインクを送る。女性たちはキャーっと黄色い声をあげる。


「さっきまで女性達に囲まれて対応に困っていたんだ。やれやれ人気者は困るよ」

「顔だけは貴族っぽいからなぁ、グレン坊は」

「なっ......貴族っぽいとはなんだ! 貴族っぽいとは! 今に見ていろ! このグレン・フォン・ロレーヌ、今夜の注目の的になってやるさ!」

「どうかなぁ、今夜の注目の的はやっぱリオなんじゃないー?」


 そう言ってベンが向こうの方に視線を送ると、そこには、


「きゃああ! レオナルド様、今度私のお屋敷にいらして!」

「お友達になってくださいませんか!」

「今度、戦場でのお話を聞かせください!」


 一際女性達の黄色い声に包まれている青年__リオがいる。彼も今夜は美しい衣服を身に纏い、少し長くなった金髪を後ろで縛っていた。


「今のリオは誰がどう見ても王子様だねえ」


 リオの周りには貴族の人間の女性達が集っていた。若い女性たちが主だったが、中には小さな少女や高齢の人まで目をハートの形にして屯していた。


「がははは! さっき来たばかりなのにこの人気はすごいな!」


 ベンが、がはは! と笑う傍ら、グレンは余程悔しいのか青筋立ててプルプルと体を震わせていた。


「そ、そうだ、ルーナだ! 普段俺の鎧姿しか見たことないルーナは、今夜の俺の麗しい姿を見れば惚れ直すに違いない! ああ! 今にもリオの悔しがる姿が目に浮かぶ! ルーナはどこだ!」

「そういえばまだ来てないね」


 グレン達がキョロキョロと会場を見渡すがまだルーナは来ていないようだった。


「ルーナやっぱりドレス着るんですかね」


 アランはドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


「お、やっぱりアラン君もちゃんルナのドレス姿、気になる? 実は俺もずっと気になってたんだよね」

「ガハハハ! なんでもオルレアン公爵が一級品のドレスを用意してくれたんだって聞いたぞ!」

「え!? それは期待大ですね......」

「――お待たせ」

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