34.入団申請
「ルーナさん! 待って......ぜぇ......っ......待ってください!」
アランは大声でルーナを呼び止めた。振り返ったルーナは、まだ怒りが残っているらしく、長い耳がピンッとイカ耳になって目がギラついている。
「......何?」
「ルーナさん! さっきはありがとうございました!」
「......ああ、あれね。災難だったわね。あいつ......ゲイリーは、王都に帰った時が一番機嫌悪いのよ。王都に住んでる奥さんや子供と上手くいってないみたい」
(あいつ、妻子持ちだったんか......)
酒場では恐怖しか感じなかったアランも、後からゲイリーの傍若無人ぶりにふつふつと怒りが込み上がってくる。が、今は一旦感情を振り払う。
「あの......僕を覚えていますか? レウミア城で一緒に戦ったアランなんですけど......」
「......ああ。そういや、居たわねそんな雑魚」
ルーナの言葉の矢がアランを突き刺す。
「......それでなんですけど、ルーナさん。折り入ってお願いがあります」
「『さん』はいいわ」
「え?」
「ルーナで良いっつてんのよ」
「は、はい! ......ルーナ。どうか、僕を金獅子の団に......ルーナの隊に入れてください」
アランは今日何度言ったかわからない言葉を繰り返して頭を下げた。
「......はあ? ............今、冗談聞く余裕ないの。他でやってよ」
「じょ、冗談とかじゃありません! 本気です!」
「............」
長い沈黙。ルーナは、じっと品定めするかのようにアランを見る。
(なんだろ......。ゲイリーやリオ団長に見られた時とは違う緊張感だな)
ルーナの赤い瞳は綺麗で、ついドギマギしてしまう。
「......そうねえ」
「は、はい!」
「あんたさ、簡単にうちに入りたいって言ってるけど、それがどんだけ大変かわかってんの?」
「はい! 雑用でもなんでも、やる覚悟です! 厳しい鍛錬にだって耐えて見せます」
「そうじゃなくて、――死ぬ覚悟はできてんの? ってこと」
「............え」
アランは思わずぽかんとした。
「いい? 私の隊は斬り込み隊よ。仮に10人入団したら、最初の戦で半分が死ぬわ」
「......」
「で、次の戦までにはメンタルやられて3人がやめる。2回目の戦をやる頃には4人しか残らないのよ」
「................................................あの、......2人では?」
「......はあ?」
ルーナは両手を出した。
「えっと......10人いるから、半分がいなくなって(ルーナは片手をグーにした)......、で、1人、2人、3人......ほ、本当だわ、2人。意外と少ないわね......」
(あんまり賢くないのかな......)
「とにかく、ルーナ隊はそれだけ厳しいのよ! それでも、あんたやる気あんの?」
「......やります」
「......」
「僕はレウミア戦で思い知ったんです。このままだと、僕はダメなままだって。ダメなままだったら、あの時、死んでいようと、老人になってから死のうと変わらないんじゃないかって」
アランの脳裏に、ふっと父親の姿が写る。彼は自らの恐怖心に屈し、守るべき主君らを殺してしまった。アランは父親の全てを否定する気はないが、自分もいつかああなってしまうのではないかと思うと背筋が凍った。
「僕はこの24年間生きてきた中で、初めてやっと、道を見つけた気がしたんです。だから、やりたいです。やらせてください」
「......」
アランのまっすぐな瞳を、ルーナは見た。そして、ため息をついた。
「......ほんと。アホみたいに皆同じ目してくんのよね。......。......良いわ。入れてあげる」
「......え?」
「あんたをルーナ隊に入れてあげるって言ってんの」
「え、でも、......剣の腕を見たり、忠誠度を試したり、経歴家柄を調べたりしないんですか?」
「この私がそんなみみっちい事する訳ないじゃない。ルーナ隊はくる者拒まず去る者追わずよ。ただし、私の癇に障る奴は出てってもらうわ」
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